鑑賞眼

「あつい胸さわぎ」 映画化も決定、心にしみる会話劇

「あつい胸さわぎ」の一場面。(左から)枝元萌、平山咲彩(提供写真、撮影:井手勇貴)
「あつい胸さわぎ」の一場面。(左から)枝元萌、平山咲彩(提供写真、撮影:井手勇貴)

令和元年に好評を博した舞台「あつい胸さわぎ」が来年初めに全国でロードショーされることが先日、発表された。東京・下北沢のザ・スズナリでは、3年ぶりにこの舞台が再演されている。

恋愛経験が乏しい大学生・千夏と、家庭を長年支えてきた明るいシングルマザー・昭子の母娘。ひょんなことから、それぞれが気になっている男性を含む5人でサーカスを見に行くことに。特別な一日に2人の胸は高鳴るが…。

この作品を担うiaku(イアク)は劇作家・横山拓也による大阪発の演劇ユニットで、ほぼ全編が関西弁の会話劇だ。装飾や音楽はほぼなく、5人の登場人物がさまざまな組み合わせで現れるたび、舞台は家庭やお店、サーカスなどさまざまな場所になる。この演出に違和感はなく、物語のテンポが途切れないため心地よくもある。軽妙なやり取りを楽しんでいるうち、いつしか観客は5人のシリアスな秘密や葛藤を共有することになる。

「あつい胸さわぎ」の一場面。平山咲彩(前列中央)ら(提供写真、撮影:井手勇貴)
「あつい胸さわぎ」の一場面。平山咲彩(前列中央)ら(提供写真、撮影:井手勇貴)

5人のうち、千夏役の平山咲彩だけが初演に出ていなかった(初演の千夏役は辻凪子)が、母親の昭子役である枝元萌との呼吸はよく合っている。冒頭の家庭の場面では、テンポの良いやり取りに劇場がわき、あっという間にアイスブレーク(緊張した雰囲気の緩和)が完了した。台本の良さもあるが、これは「オカン」そのままの枝元の雰囲気と話術によるところが大きい。初演の際、読売演劇大賞優秀女優賞を取った技量は、やはりただものではないと早々に思い知らされた。

平山の明瞭な声は、耳に心地いい。千夏役のフレッシュさが前提条件ともいえる舞台であるが、十分に応えていた。「いい人」だが頼りない、昭子の上司を演じる瓜生和成も、間を生かした個性的な演技がさえている。

母娘のはかない思いに、「ある問題」が徐々に影を落としていくストーリーは明快だ。直球すぎるぐらいだが、素直に心にしみてくる。社会でも注目が集まっている、その「問題」自体が劇のテーマだとみる声もあるようだが、個人的には誰かと理解しあい、関係をつなげていくという普遍的な営みの難しさやすばらしさが中心に描かれていると感じられた。

「あつい胸さわぎ」の平山咲彩(提供写真、撮影:井手勇貴)
「あつい胸さわぎ」の平山咲彩(提供写真、撮影:井手勇貴)

孤立から脱したり、何かを動かしたり、理解したりするため、人間は誰かと触れ合おうとする。結果、自分を傷つけてくるのもまた人間である。その代わり、自分が行き詰まったように感じたとしても、誰かがいる限り、いつかは光が見えるかもしれないと希望を持つことができるのだ。

さらに世に知られるという意味で、映画化は作品の「出世」である。映画版には、吉田美月喜(みづき)、常盤貴子らが出演する。劇にほれ込んだというまつむらしんご監督の手腕にも期待したいところだが、未見ならまず、可能であれば舞台を訪れることをお勧めしたい。(芦川雄大)

「あつい胸さわぎ」

下北沢のザ・スズナリで14日まで。18~22日に大阪・インディペンデントシアター2nd。

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