真夏の涼

気温11度の巨大鍾乳洞 滋賀・河内の風穴

自然がつくり出した神秘的な巨大洞窟の温度は11~12度。涼しいを通り越して寒いくらいだ=滋賀県多賀町
自然がつくり出した神秘的な巨大洞窟の温度は11~12度。涼しいを通り越して寒いくらいだ=滋賀県多賀町

外はうだるような暑さでも、その洞窟に足を踏み入れた瞬間、多くの人が「寒っ」と思わず叫ぶ。滋賀県多賀町の鍾乳洞「河内の風穴」の温度は年間を通じて11~12度。夏の外気との温度差が大きいほど、洞窟の入り口に強い冷風が吹き出す。中に入ると天然クーラーの大空間が広がり、悠久の時間がつくり上げた大自然の神秘が味わえる。

河内の風穴の「河内」は地名、「風穴」は「ふうけつ」と呼ばれることも多いが「かざあな」が正式名称だ。100段近い石段を上った先に開いた小さな洞窟の入り口から、その名の通りに風が吹き出す。汗をぬぐう暑さから一転、外気より約20度も冷たい風の出迎えは半袖で大丈夫だろうかと不安にさせる。

伊勢まで続く?

頭をかがめて少し中に入ると風はなくなり、高さ20メートル、幅60メートルに及ぶ大空間「大広間」が目の前に広がる。夏の暑さとは無縁のひんやりした空間は、違う惑星に迷い込んだような異世界気分も楽しい。

大広間を抜けると坑道のような道が続き、ちょっとした探検気分で真上に開いた空洞に向かってはしごを登る。入り口から約200メートル。「キケン これより奥へ入らないで下さい」の柵までが観光洞だが、洞窟はまだまだ続いている。

「その昔、洞窟内に犬を放すと、鈴鹿山脈の向こう側の伊勢に出てきたという伝説が残っているほどの長さです」と河内風穴観光協会の菅森照雄会長(73)。風穴の全体像はいまだに解明されていないという。

見学できるのは洞窟全体のほんの一部だが、ちょっとした探検気分も味わえる =滋賀県多賀町
見学できるのは洞窟全体のほんの一部だが、ちょっとした探検気分も味わえる =滋賀県多賀町

国生み神話のスケール

多賀町といえば、伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)、伊邪那美(いざなみの)大神(おおかみ)を祭る多賀大社が有名だが、陸地が漂う海に矛をおろし、かき回す国生み神話のイザナギ、イザナミのスケール感は、大社から約6キロの山中に位置する河内の風穴もひけをとらない。

多賀町立博物館の阿部勇治さん(51)によると、風穴がある霊仙(りょうぜん)山は国内有数の石灰岩地帯「近江カルスト」の一部で、恐竜誕生以前の南半球の海の海山(かいざん)などでできた石灰岩の塊が、プレートごと北に移動し、隆起してできた。

それを証明するのが、同館で展示されている腕足(わんそく)動物や巻貝、サンゴなどの化石だ。阿部さんは「それらは古生代ペルム紀(約2億8千万年前)にパンサラッサ海と呼ばれる大海に生息していた生物で、霊仙山地域はそうした貴重な生物の化石が産出することで知られている」と話す。

 近くの多賀町立博物館では、河内の風穴について映像や資料で学ぶことができる
近くの多賀町立博物館では、河内の風穴について映像や資料で学ぶことができる

飛行機一機がまるごと

河内の風穴の巨大な地下空間は、二酸化炭素が溶け込んだ弱い酸性の雨水が石灰岩を少しずつ溶かしてドリーネ(落ち込み穴)ができ、さらに地下水の働きなどによって形成されたという。

風穴の総延長は、内部の測量図が公開された平成元年は約3キロだったが、その後の調査で10キロを超えていることが判明した。国内では岩手県の安家洞(あっかどう)と鹿児島県の大山水鏡(おおやますいきょう)洞(どう)に次ぐ長さで、山口県の秋芳洞と3位を競っている。

風穴の「観光洞」の先には、飛行機が一機まるごと入るという巨大空間や地底湖があり、同館では調査隊が撮影したその神秘的な映像も見ることができる。(川西健士郎)

渓流遊びも

河内の風穴の入場料は一般500円、子供(5歳~小学生)300円。公共交通機関はなく、JR彦根駅から乗り合いタクシーを使う人が多い。車からは霊仙山から流れ出した石灰岩の作用による青い神秘的な色をした芹川の渓流の景色が楽しめる。風穴を見学した後、渓流で水遊びをする家族連れも多い。問い合わせは河内風穴観光協会(0749・48・0552)。

風穴の成り立ちや化石などを展示する多賀町立博物館(0749・48・2077)は、全国でもっとも完全に近い形で発見された約180万年前のアケボノゾウの化石標本が有名。観覧料は250円(15歳以下は無料)。月曜、祝日など休館。

河内の風穴と合わせた涼を感じる観光ルートの定番が、滋賀県米原市醒(さめ)井(がい)の名水百選「居(い)醒(さめ)の清水」から湧き出す地蔵川で見られる水中花「梅花藻(ばいかも)」で、8月下旬まで見頃。

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