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笑顔のシンデレラ 論説副委員長・別府育郎

最終ラウンドを終え、インタビューで笑顔を見せる渋野日向子。通算9アンダーで3位だった=ミュアフィールド・リンクス(共同)
最終ラウンドを終え、インタビューで笑顔を見せる渋野日向子。通算9アンダーで3位だった=ミュアフィールド・リンクス(共同)

全英女子オープンで2度目の優勝を目指した渋野日向子は首位にわずか1打及ばず、「悔しい」と涙をみせた。それでも2019年大会を満面の笑顔で制し、「スマイル・シンデレラ」の異名でギャラリーの心をつかんだプレースタイルは健在で、ゴルフの聖地で大きな声援を浴び続けた。

とにかく明るい。見ていて楽しい。インタビューで涙をみせた後は18番のグリーンサイドでプレーオフの行方を見守り、19年大会に続いて最終組を共に回ったブハイ(南アフリカ)が初のメジャー制覇を決めると、跳び上がりながら頭上で大きく拍手した。

前週のスコットランド女子オープンを制した古江彩佳の笑顔も魅力的だった。国内女子ツアーを席巻する若手選手も皆、よく笑う。ギャラリーも選手の仏頂面をみせられるより、はるかに楽しい。

米大リーグでは大谷翔平が投打の活躍のみならず、ちゃめっ気たっぷりなプレーで全米を笑顔にしている。松井秀喜のまじめ、イチローのクールといった日本人選手のイメージも今は昔だ。

甲子園球場の高校球児らも、皆よく笑っている。グラウンドで白い歯をみせるなと叱られたのも、これまた昔話か。

今年、突然始まった現象ではない。30年以上前、高校野球にガッツポーズとフルスイングが目立ち始め、プロ野球界で管理野球やID野球がもてはやされだしたころのことだ。稲尾和久さんがこう話してくれたことがある。

「高校野球がどんどん明るくなって、プロ野球が窮屈になっていく。おかしいと思わないか。お客さんに楽しんでもらうのがプロ野球なのに」

昭和33年、巨人との日本シリーズで3連敗の後、稲尾さんは4連投4連勝で西鉄を日本一に導き、第5戦ではサヨナラ本塁打も放った。その「神様、仏様、稲尾様」の言葉だ。幸い、今はプロ野球も剛速球やフルスイングが復権し、魅力の中心となっている。

昨年の東京五輪でもスケートボードなどの新しい競技を中心に、選手の笑顔があふれた。「五輪を楽しみたい」と話す選手が批判の集中砲火を浴びたのも、そう遠い過去のことではない。

日本のスポーツ界はさまざまな問題を抱えているが、大きな流れは正しく明るい方角に向かっているのではないか。渋野の活躍、人気は、その象徴である。

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