安倍氏銃撃現場、他党は演説見送り 360度警戒難しい「中州」リスク回避

西大寺駅周辺工事の変化
西大寺駅周辺工事の変化

自民党の安倍晋三元首相(67)が街頭演説中に銃撃された奈良市の近鉄大和西大寺駅前は、平時から人通りが多く、自民だけでなく各党が演説を行う選挙時の定番スポットだった。もっとも、安倍氏が当日マイクを握ったガードレールに囲まれたエリアについては、警備上の観点から避けていた政党もある。8日で銃撃事件から1カ月。あの場所に安倍氏が立つことになった経緯を追った。

■集客の必要性

「平日の昼間でも人が集まる場所。それがどこかと考えれば、大和西大寺駅前しかなかった」。自民奈良県連の関係者はこう振り返った。

参院選の公示後、自民の現職陣営は他候補の猛追に危機感を募らせ、全国的な知名度と人気を誇る安倍氏に来援を要請。事件10日前の6月28日に安倍氏は同駅南口で演説した。その際は背後に選挙カーを配置していた。

以降も接戦が報じられ、事件前日の7月7日午後に安倍氏の再度の奈良入りが決定。陣営側は翌8日の会場について、もともと予定していた近鉄学園前駅周辺から、大和西大寺駅北口に差し替えた。急遽決まった日程のため動員をかける時間はなかったが「安倍さんクラスが来るのに、聴衆が少ないのは避けたかった」と陣営関係者。そこで同駅前でも百貨店や商業施設がある北口が選択された。

■「定番」使えず

安倍氏が演説に立ったのは、ガードレールに囲まれた幅約15メートル、縦約4メートルの「中州」のような場所。管理する市によると、中州は10年以上前からあったが、自民の地元議員は「今回の参院選まで演説場所に使った記憶はない」という。

実は北口の定番スポットは別にあった。中州の少し北方に選挙カーを止められる広いスペースがあり、車上や背後に車を止めて演説するスタイルが一般的だった。しかし今年4月中旬から駅前整備工事が始まり、それに伴いスペース自体がなくなってしまった。

このため参院選公示後の6月25日、自民の茂木敏充幹事長は中州で演説。「ガードレールに囲まれ、不審者が容易に近づくことはできない。逆に安心だと思った」と別の陣営関係者が明かすように、このときの〝成功体験〟が安倍氏の演説に影響した。自民県連幹部は「銃撃リスクは想定すらしなかった」と話した。

事件前日に奈良県警と陣営スタッフが改めて現場を訪れ、安倍氏の立ち位置などを確認。中州は360度展望がきく開けた場所だったが、安全性は問題視されず、急ピッチで警備計画がまとめられた。

■逃げ場ない

一方、中州について正反対の印象を持った政党もある。「四方をガードレールに囲まれ、襲撃されたときに逃げ場もなく危険と感じた」と話すのは、日本維新の会奈良県総支部の幹部だ。事件2日前の6日、松井一郎代表(大阪市長)が同駅北口で応援演説を実施した際は、中州から北に約150メートル離れた路上で行っていた。

参院選期間中、公明党は選挙カーを近くに置けないとして、同駅南口で演説を実施。共産党は公示前の6月11日、党幹部が中州で演説したが、ガードレールを動かして車を入れ、車上からマイクを握っていた。

(田中一毅、秋山紀浩)

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