正論9月号

特集「安倍晋三の遺志を継げ」 まかれた種を次の世代につなげ 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

事件現場周辺には献花台も設置され、多くの人たちが手を合わせた=7月10日午前、奈良市(彦野公太朗撮影)
事件現場周辺には献花台も設置され、多くの人たちが手を合わせた=7月10日午前、奈良市(彦野公太朗撮影)

※この記事は、月刊「正論9月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

とにかく優しく、律儀で誠実な人だった。七月八日、奈良市で街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の思い出は尽きず、もう楽しく会話することも、国際情勢や日本社会の在り方について、真剣に言葉を交わすこともないのだという実感がまだわかない。

五月十四日のフェイスブックに、外食帰りの暗い路地で何かに足を引っかけ、転んでケガをしたと記したところ、安倍氏がこんなコメントを書き込んでくれた。

「祖父の長生きの秘訣の一つは転ばない事。お大事に。」

九十歳まで生きた祖父、岸信介元首相が日頃から転ばないよう気を付けていたことを記し、戒めてくれたのだった。

その安倍氏が六十七歳で非業の死を遂げるなどと、誰が想像できただろうか。あまりに無情な現実と、安倍氏を失い流動化する日本の今後を考えると、目の前が暗くなるのを禁じ得ない。

亡くなる前日、七日夜にも安倍氏と電話で話したばかりだった。

安倍氏は七日、参院選の岡山選挙区で自民党の小野田紀美参院議員の応援演説を行った。この選挙区は岡山創価学会が小野田氏ではなく、立憲民主、国民民主両党が推薦する対立候補を支援したことで注目されていた。

そこで「岡山はどうでしたか」と聞くと、安倍氏は高揚した声で答えた。

「すごい盛り上がっていた。聴衆は千五百人ぐらい来て、会場に入りきれず外にあふれていた。午後八時に当確が出るだろう」

「新潟も勝つと思う。自民党はかなりの確率で、六十議席いくと思う」

自民党の候補者の女性スキャンダルが報じられた長野に行く予定は変えたのかと確かめると、理由は「応援演説を邪魔する人」にあるとこう語っていた。

「あそこは、私たちが行くと暴れる人がいるから。実際、麻生さん(太郎副総裁)が入ったんだけど、変な地元議員がマイクを持って週刊誌記事を読み上げたそうだ。私が行って騒ぎが起きると、それが報じられることで他の選挙区に影響が出るとよくない」

予定通り長野に行っていれば奈良に入ることはなく、悲劇に見舞われることはなかったのかもしれない。残酷すぎる運命のいたずらというほかない。

アベガーが警備に与えた影響

安倍氏やその家族、同志たちを悪魔化して描き、彼らに対しては、何を言ってもやっても許されるという風潮を左派マスコミや野党、左派文化人がつくった。この「アベガー無罪」が警察の監視、取り締まりを緩くさせてきたことも背景にあるかもしれない。

三年前の令和元年の参院選では、演説中の安倍氏にヤジを飛ばした男女が北海道警に排除された。ところがこれに対し、札幌地裁は警備が違法だったとして、北海道に損害賠償を命じたのである。

判決は、ヤジを飛ばした男女の「表現の自由」を認めたものだが、演説を静かに聞いて選挙の判断材料にしたい聴衆の権利はどうなるのか。こうした安易な判決が今回の警備に与えた影響はないと言えるのか。

実は三年前には、東京都中野区でもこんなことがあった。女性が安倍氏の街頭演説が「安倍辞めろ」などと叫ぶヤジで聞こえないので、騒いでいる集団に注意したものの相手にされなかった。

現場にいた警察官にも、何度か「罵声で演説が聞こえない。対処してもらえないか」と要請したにもかかわらず、警官にも無視されてしまった。

そこで選挙妨害の実態をスマートフォンで撮影して記録しようとしたところ、騒いでいた一団に取り囲まれ、スマホを取り上げられて地面にたたきつけられて破壊されたのである。

結局、目撃証言があったため、破壊した実行犯は逮捕されたものの、警察側は女性にこう釈明したのだった。

「注意すると人権問題だとか差別だとか言われるから、強力に排除はできない」

マスコミや野党は、安倍氏が街頭演説中に「こんな人たちに負けるわけにはいかないんです」と述べたことを批判し、繰り返し「国民を『こんな人たち』呼ばわりして選別した」と書きたてた。

だが、安倍氏につきまとう「こんな人たち」は実際にいたのである。そして「こんな人たち」のクレームや訴訟戦術、そしてそれを美化して拡声するマスコミを恐れて、警察は及び腰になった。今回の安倍氏暗殺事件の一因は、歪んだマスコミ報道にある。

続きは「正論」9月号でお読みください。ご購入はこちらをクリック

「正論」9月号 主な内容特集

【特集 安倍晋三の遺志を継げ】

まかれた種を次の世代につなげ 「政界なんだかなあ」特別版 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

時代を先取りした不世出の指導者 杏林大学名誉教授 田久保忠衛

日本には稀有な戦う政治家 評論家 金美齢

皇室を守り抜いた尊皇の気概 「君は日本を誇れるか」特別版 作家 竹田恒泰

念願は憲法改正して普通の国になること 政治評論家 屋山太郎

命懸けだった闘いの記録 麗澤大学客員教授 西岡 力

日本の救世主か 松陰の生まれ変わりか 「フロント・アベニュー」特別版 麗澤大学教授 八木秀次

米国内の評価を一変させた祖国愛 麗澤大学特別教授・産経新聞ワシントン駐在客員特派員 古森義久

岸田政権がなすべきアベノミクスの完遂 前日銀副総裁 岩田規久男

PB黒字化目標 完全撤廃へ結束せよ 「経済快快」特別版 産経新聞特別記者 田村秀男

アジア諸民族への深い理解と支持 静岡大学教授 楊海英

「反アベ無罪」に寛容すぎた社会 ジャーナリスト 林智裕

台湾に走った激震 チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

国際政治変えた三つの業績 評論家 江崎道朗

安心感失った後の外交・安保政策を憂う 麗澤大学客員教授・元空将 織田邦男

全てを背負った要の喪失 政治学者 岩田温

李登輝先生への手紙 東京国際大学教授 河崎真澄

絶対に言えなかった「第三次安倍政権」 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗

日米訓練に水差す岸田首相の感度疑う 月刊「正論」編集部

日本のサイバー能力は本当に低いのか NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト 松原実穂子

日本のエネルギー政策を取り戻そう 東京大学大学院特任教授 有馬純

琉球国尚家当主 沖縄の人々は先住民族にあらず 第二尚氏23代当主 尚衞 × ジャーナリスト 仲村覚

漫画「墓標なき草原」②牧畜民 バイワル 74ページ一挙掲載! 漫画家 清水ともみ

「在日ウイグル人証言録⑪」政府は人権状況を調べよ 評論家 三浦小太郎

〈証言1〉ハイレット(男性)「発信が許されない社会」

〈証言2〉グリ(仮名・女性)「国際社会の抗議は効いている」

〈証言3〉アリフ・ミジト(男性)「ウイグル人の意識を持てば罪」

安倍氏も嘆いた「埼玉LGBT条例」 ジャーナリスト 椎谷哲夫

「表現の不自由」で面白さ失ったテレビ ジャーナリスト 鎮目博道

会員限定記事会員サービス詳細