編集者のおすすめ

『モノクロの夏に帰る』 現代の若者が感じた戦争

『モノクロの夏に帰る』
『モノクロの夏に帰る』

『モノクロの夏に帰る』額賀澪著(中央公論新社・1760円)

「私のおじいちゃんおばあちゃんは、戦争の体験談を持っていなかったんですよね」

2年前、著者の額賀澪さんのこの一言から『モノクロの夏に帰る』は生まれました。 額賀さんは当時29歳。担当編集の私は28歳。小学生の頃に経験した、祖父母に戦争体験を聞くという宿題について話していた時のことでした。私たちより若い世代は、生の戦争体験を聞くことが難しいのだということに、はたと気付きました。

当たり前に語られていた戦争の体験談は、まもなく歴史の一部となる。そんな危機感から戦争と現代の若者をテーマに小説を書いてもらうことになりました。

物語は、戦時中のモノクロ写真をカラー化したものをきっかけに展開していきます。古い写真に秘められた記憶が解凍され、保健室登校の女子中学生や広島出身のテレビマンら、戦争を知らない世代の心を動かしていきます。

刊行の5カ月前、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。額賀さんは「今まで『戦後』だと思って生きてきたこの時代は『戦前』だったのかもしれない」と感じたそうです。既に原稿は書き上がっていましたが、ウクライナ侵攻について加えるため、すべて書き直してもらいました。

困難な時代を生きる私たちは、自分のことだけで精いっぱいかもしれません。けれど私たちが、そして未来の子供たちが、決して戦争の当事者にならない世の中を作るために、どうか手に取ってほしい一冊です。

(中央公論新社文芸編集部 金森航平)

会員限定記事会員サービス詳細