にぎわいは地元の人から 湯田中温泉街に「コロナ後」見据えたカフェ

「WKWK(わくわく) CAFE FOOD&SPACE」の店内=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)
「WKWK(わくわく) CAFE FOOD&SPACE」の店内=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)

長野県を代表する温泉「湯田中(ゆだなか)温泉」(山ノ内町)で、新たなカフェ兼イベントスペースが誕生した。同店は6年前にインバウンド(訪日外国人)向けに開業したが、新型コロナウイルス禍以降は主役不在。そこで、雰囲気や価格設定を見直し、地元の人も内外の観光客も気軽に入れるよう間口を広げ、回遊の拠点とすることにした。同温泉では1年半後に新たなシンボルとなる旅館の開業を控えており、関係者はコロナ後を見据え「地域の人も楽しめることから始め、にぎわいを取り戻したい」と期待する。

まちづくりに奮闘

湯田中温泉では平成26年、地元の有志がまちづくりのための合同会社「WAKUWAKUやまのうち」を設立。27年には県内金融機関や地域経済活性化支援機構が設立した「ALL信州観光活性化ファンド」や地元旅館などが出資し、八十二銀行が取締役を派遣させるなどして株式会社化した。

温泉に入るサル「スノーモンキー」で知られる地獄谷野猿公苑を目当てに訪れるインバウンドに宿泊滞在してもらおうと、WAKUWAKU社は長野電鉄湯田中駅前の温泉街の空き店舗を埋める形で、カフェや宿泊施設など計5施設を出店した。

数年後、これらの施設は地域の若手らに事業譲渡されたものの、令和2年にコロナ禍が本格化してからはインバウンドをはじめとする客足は遠のいた。

「WKWK(わくわく) CAFE FOOD&SPACE」=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)
「WKWK(わくわく) CAFE FOOD&SPACE」=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)

今回新たに誕生したカフェ「WKWK(わくわく) CAFE FOOD&SPACE」はそのうちの1施設。カフェ兼観光案内所として出発し、途中でバーに業態変更したものをカフェに戻した。昨年3月に飲食店を複数経営する「U.I.インターナショナル」(君島登茂樹代表、長野市)が事業譲渡を受けているが、WAKUWAKU社が地域活性化のために共同運営という形で手を携える。

旅館社員を派遣

具体的にはWAKUWAKU社の大株主で旅館を経営する「萬屋傳蔵(よろづやでんぞう)」が、約20年のキャリアを持つ女性社員1人を派遣して店舗を運営。平均客単価1200円程度だったメニューを700円程度に見直して「地元で働いている人でも気軽に入れるように」敷居を下げるとともに、この女性社員の持つ地元農家などとのネットワークをメニュー開発や各種のイベント開催に活用する。

「山ノ内町産リンゴと紅茶のタルト」とコーヒー=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)
「山ノ内町産リンゴと紅茶のタルト」とコーヒー=長野県山ノ内町(原田成樹撮影)

コーヒーとタルトで600円からと誰でも気軽に入れる価格に設定。ドリンクバーは500円。余暇を過ごしながら仕事もするワーケーションの人も利用しやすいように電源やインターネット回線も備える。客席の半分を可動式のローテーブルとし、「そば打ち体験会」など各種イベントで使いやすいように改装した。

エリアの魅力必要

同温泉は、コロナ禍に加え、令和3年2月にシンボルだった国登録有形文化財の旅館「松籟荘(しょうらいそう)」が全焼する不運にも見舞われた。経営する萬屋傳蔵の小野誠社長によると、新松籟荘を令和6年1月にオープンする計画だ。

小野社長は「旅館は個々の努力では限界で、エリアとしての魅力が必要。今回の社員派遣も、会社としての地域づくりの取り組みだ。2年後、宿泊客がそぞろ歩きできる雰囲気に持っていきたい」とにぎわい創出を期待する。

WAKUWAKU社の岡嘉紀社長は「いきなり店に行列ができるとは思っていない。誰かがこういう店を始めないとさびれたところに新松籟荘がオープンするだけになってしまう」と長い目でみる。

インバウンドが本格再開してもサルが温泉に入るのは冬季のみ。他の季節の稼働率をいかに上げるかなど、インバウンド頼みから脱却する長旅は緒に就いたばかりだ。(原田成樹)

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