主張

原爆の日 現実を直視し平和の道を

広島は77回目の「原爆の日」を迎えた。

多くの命が一瞬で、無差別に奪われた。犠牲者を悼み、平和への思いを新たにしたい。

ロシアのウクライナ侵略が続く今、世界は核戦争の危機に直面し、すべての国の安全保障が揺さぶられている。

日本は唯一の被爆国であり、この悲劇を最初で最後にするためにも、広島と長崎の経験を世界に伝え続ける責務がある。そのためには、あらゆる手立てを尽くすべきである。

核兵器廃絶は誰もが願うことだが、残念ながら理想と現実には大きな隔たりがある。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所の推計によると、今年1月時点での世界の保有核弾頭数は1万2705発だ。

ウクライナ侵略を続けるロシアは、対露制裁を強める米欧諸国を核兵器で恫(どう)喝(かつ)し、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返している。米国防総省の報告書によると、中国は2030年までに少なくとも1千発の核弾頭保有を目指す意向があるという。

広島市の松井一実市長は平和宣言で、ウクライナ危機により、世界には核抑止力の拡大に理解を示す傾向があるとし、この流れを変えるためにも「核なき世界」実現を訴えるという。だが、現実に核兵器の使用を踏みとどまらせているのは、核抑止力である。

岸田文雄首相は米ニューヨークで開催の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説し、「核なき世界」という「理想」と、厳しい安全保障環境の現実を結びつけると強調した。だが、示した行動計画は具体性に乏しい。

ウクライナ危機で明確になったのは、核戦争のリスクが現実の脅威となり、抑止に向けた現実的な議論を進めるべき状況にある、ということだ。「核なき世界」の理想は尊いが、それを唱えるだけでは平和は守れない。

被爆者健康手帳を持つ被爆者は今年3月末時点で初めて12万人を下回り、平均年齢は84・53歳と高齢化が進んでいる。惨禍をいかに次世代につなぐのか。原爆の悲惨さや核抑止の重要性を発信する意味は今、重みを増している。

8月6日は原爆の悲惨さを訴え、犠牲者を悼む日である。そして同じ惨禍を繰り返さないために、現実的に平和を守ることを誓う日でもある。

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