井崎脩五郎のおもしろ競馬学

祭り上げられた「ホットホース」

「ホットホースって、知ってるかい?」

長老記者にそう聞かれた。

綴りは、hot horse。

「うーん。暑さにやられて、へばっている馬ですか」

「ブー」

「じゃあ、気性が荒っぽくて、出走すると、そのレースを激アツにしてしまう馬」

「ブー」

「正解はこれなんだよ」と、長老記者が開いて見せてくれたのは、『競馬英語用語集』(日本中央競馬会)。そこにホットホースの解説が載っていた。

ホットホースとは、通常なら本命になるような馬ではないのに、チップスター(tipster=予想屋)などの情報によって馬券が売れまくり、オッズが非常に低くなってしまった馬のことをさすという。

たしかに、そういう例って、あるんだよなあ。

たとえば、ある馬について、担当の厩務員(きゅうむいん)さんが、「休み明けだからあまり大きなことは言えないけど、かなり仕上がってるよ」と言ったとする。

それは人から人へ伝わるうちに、「抜群の仕上がり」→「負けないと思う」→「このあと大きいところも狙っている」と、尾ひれがついてしまうのである。こういう人気馬はたいがい負ける。

文豪・菊池寛(1888~1948)の『日本競馬読本』(1936年発行)のなかに、「怪しい本命」という一章がある。

〈その馬の実力を深く考察してみる時、その実力に相当疑問のある馬が時に本命に祭り上げられる。/こう云う本命をただ人気だけに釣りこまれて、確実な本命に対すると同じように無考察にその1着を信じたりすると飛んでもないことになる。〉

菊池寛は、「菊池先生、このレースは6番の馬で絶対です。早朝の猛調教を目撃したのは私だけです」という、ご祝儀狙いの情報屋に悩まされていて、意趣返しにこの一章を書いたという見方があるそうだ。俺に近づいてくるなという咳(せき)払いだったのかも。(競馬コラムニスト)

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