老いを遠ざけて過ごす78歳の女性に訪れた人生の変転と終活をユーモラスに描いた朗読劇「泉ピン子の『すぐ死ぬんだから』」が4日、東京都豊島区のあうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)で開幕した。初日に訪れた観客は涙あり、笑いありの人情喜劇を楽しんだ。
身だしなみに気を使い、若々しく見せようと生きる忍(おし)ハナは78歳。東京・麻布で息子に家業を譲り、夫婦で仲むつまじく隠居生活を送っていたが、夫の急死後、愛人と隠し子がいたことが発覚する。品格のある老後を迎えるための〝終活〟をテーマにした内館牧子のベストセラー小説を原作に、台本と演出は笹部博司、作曲は宮川彬良が手掛ける。
主人公のハナを泉ピン子、夫の岩造を村田雄浩(たけひろ)が演じるなど、十数人の登場人物を2人だけで演じ分ける。
主演の泉はまるで本人のように、ハナというクセの強い女性を自然体で演じる。最愛の夫に先立たれ、悲嘆のあまり無気力にさいなまれる様子から一転、不倫が明らかになるまでのサスペンスをたくみに表現。やがて裏切られたことを知り、「(42年間も)だまされていた!」と叫ぶ姿には、悲劇的なのにどこかおかしみもあり、泉という女優の持つ世界観なのだろうと納得する。
共演の村田は冒頭、雑誌の女性編集者役で品を作りながら登場して笑いを誘うと、その後も個性豊かな登場人物を演じ分ける芸達者ぶりを発揮。本を持ちながらという朗読劇でありながら、泉との掛け合いは観客を極上の表現世界へといざなう。作品の要所要所には映像が投影され、5脚の椅子が並べられた舞台上を、2人は座ったり、歩き回ったり…。人生の喜怒哀楽を描きながら、落ち着いた優しい旋律が作品全体を包み込んでいた。
東京・池袋での公演は14日まで。その後、富山、福岡、熊本、鹿児島、大阪、愛知、神奈川、兵庫、栃木、山口県など全国を巡る。問い合わせはキョードー東京、0570・550・799。(三宅令)