少子高齢化で労働人口の減少が続き、将来に向けた人材確保が大きな課題となっている。企業は採用拡大や離職者の抑制に知恵を絞らないと存続が危うくなりかねない。こうした中、複数の顧客企業を、あたかもそこの社員のような存在として渡り歩ける経験が魅力の働き方や、類を見ないほどの手厚い福利厚生で社員の満足度を高める企業が注目を集めている。
中堅・中小企業の社内情報システム部門の業務を受託するIT企業、ユナイトアンドグロウ(UG)は、同社に籍を置いたまま複数の顧客企業に出向き、業務を日替わりで受け持つ独自の「シェアード(共有)社員」制度を採用している。
UGにはITに精通する社員が多い。こうした社員が、IT人材難に直面する中堅・中小と準委任契約を結び、「コーポレートエンジニア」としてシステム担当者と作業する。ある程度の社内研修などが必要な派遣とは異なり、高度なIT人材なので多くの企業で受け入れられている。顧客は都内を中心に230社ほどだ。多い社員でUG以外に5社に〝出社〟する。
UGによると、この働き方が「多角的な視点が身につけられるなど、成長の機会が得られると好評だ」(人材開発担当)という。実際、ITスキルを高められそうだと若者に評価され、社員数は約200人に増えた。新型コロナウイルス禍で中堅・中小のデジタル化意欲も強く、売上高は令和3年12月期に20億円の大台を達成した。
こうした状況を踏まえ、同社は社員の拡充を進める。毎年15%ずつ社員を増やし、15年には1000人体制に引き上げる。須田騎一朗社長は「既に手一杯の状態だ。社員を増やすことでより多くの中堅・中小企業のデジタル化を支えていく」と意気込む。人材を引き寄せる原動力はシェアード社員という働き方が放つ「自身の成長への期待」という魅力だ。
一方、福利厚生の充実で社員の満足度を高める取り組みも進む。
失恋すると取得できる「失恋休暇」などユニークな福利厚生で知られるPR会社、サニーサイドアップグループ(東京都渋谷区)。同社は原則32項目からなる福利厚生の「32(サニー)の制度」の拡充を続ける。
平成27年には国内企業で初めて「卵子凍結補助」を導入した。さらに今年4月、不妊治療の保険適用拡大に伴う助成金ルールの変更に合わせ、卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べるための血液検査「AMH検査」費用補助対象を社員の家族やパートナーにまで拡大した。2カ月程度で対象者の15%が利用するなど好評だったことから、7月には「精液検査」の費用補助も加えた。
一連の取り組みについて次原悦子社長は「社員が自分らしく働ける環境作りを進めている。今後も進化を続けたい」と話す。
損害保険大手のSOMPOホールディングスが昨年末に実施した「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」によれば、「働くうえで幸福と感じること」では定番の給与や労働時間に加え、仕事のやりがいや福利厚生、スキルアップなども働くモチベーションとなっていることがうかがえる。労働人口の減少は歯止めがかからない。社員の満足度を高める取り組みが一段と重要になりそうだ。(青山博美)