安倍氏警備計画、安易な前例踏襲や危機感欠如が浮き彫りに 警察庁検証

警察庁が5日、明らかにした安倍晋三元首相(67)銃撃事件における警護警備の検証の途中経過では、奈良県警の安易な前例踏襲や危機感の欠如が改めて浮き彫りになった。警察庁は8月末までに、事件の検証結果などをまとめる方針だ。事件発生から8日で1カ月。現場の状況が見えてきた。

制服警察官配置せず

警護計画は奈良県警が作成したが、主眼は「聴衆から外に飛び出す不審者」や「聴衆の中に紛れた不審者」への対応だった。このため、山上徹也容疑者(41)のように、強固な殺意を持った者への対応は配慮されていなかった。

事件の現場となった近鉄大和西大寺駅北口では、6月25日に自民党の茂木敏充幹事長が演説。駅南口では6月28日に安倍氏がマイクを握っており、県警は計画策定に、これらで使用した計画を安易に踏襲していた。

事件当日は茂木氏よりも若干人員を増強したが、ほぼ同じメンバーで臨んでいた。警察庁は「(計画策定に際し)危険度の評価を十分にせず、同じような計画でやっていた」と指摘、危険の認識のバランスを欠いていたとみている。

現場には制服警察官は配置されていなかったが、これも奈良県警の長年の「前例」を踏襲していた。現場は交通量が多く、選挙事務所は5人の警備員を雇って交通整理に当たっていたが、警察庁は、仮に交通整理などで制服警察官が投入されていれば、山上容疑者の接近の阻止や犯行の抑止につながった可能性にも言及した。

距離は問題視せず

警護員の位置関係の問題も浮かんだ。

安倍氏はガードレールで四方を囲まれた狭いエリアで演説。そこには、警視庁のSPや警護員の計4人がいたが、いずれも安倍氏から2~5メートル離れていた。全員が山上容疑者が近づいた安倍氏の背後を警戒しておらず、1発目の銃声まで誰も山上容疑者の存在に気づかなかった。

最も安倍氏に近かったのは警視庁のSPで、1発目の銃声が聞こえた後、2発目までに山上容疑者と安倍氏との間に入って安倍氏を守ろうとしたが、間に合わなかった。対応が遅れたことについて「花火か何かと思い、銃声とは気付かなかった」などと説明しているという。

安倍氏と4人の間に距離があったのは、警護計画の主眼が聴衆の警戒に置かれていたため。この距離的な制約で、4人は安倍氏に覆いかぶさるなどの身の安全を確保する警護の定石対応が取れなかったという。

ただ、距離があった点については、聴衆が接近すれば、安倍氏との距離を詰めるなど臨機応変の対応が取られていたとし、警察庁は「直ちに合理性を欠くとはいえない」とみている。

現場指揮「不十分」

現場の意思疎通の欠如も判明した。

警護員同士は無線で連絡を取り合っていた。しかし現場の統括役には、現場の状況で立ち位置や警戒方向を変更した警護員についての報告はなく、警護員同士の意思疎通も図られていなかったという。統括役は全体を見ており、誰も安倍氏の背後を見ていないことを認識できたはずだが、適切な配置を指示せず、指揮が不十分だった。

警察庁の担当者は「これらの問題点は検証結果で確定したものではない」としながらも「現場の指揮、計画、組織的な問題に収斂(しゅうれん)しつつある」としている。

浮き彫りになった不十分な現場の対応。警察庁は、警護計画のチェック体制構築など、現場の警護警備への関与の度合いを強化する方針で、約30年ぶりに警護要則の見直しに踏み切るとみられている。

安倍氏銃撃現場、制服警察官配置ゼロ 警察庁、警護計画の妥当性検証


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