絵本と歩む

「えんにち」 丹念な絵の力

「えんにち」
「えんにち」

昭和48年に福音館書店から刊行された「えんにち」(五十嵐豊子絵)は、文字のない絵本です。お兄ちゃんと妹が神社の縁日に出かける場面から始まります。

神社の全景が見開きで描かれ、屋台の道具が運び込まれます。屋台が組み立てられていく様子を兄妹が興味深く見つめる姿から、縁日の始まりを待ちきれずに神社にやってきたことがわかります。

綿菓子に金魚売り、いか焼きに焼きそば…。いろいろな屋台が立ち並び、いつもは静けさに包まれた神社に人々が集まってきます。

日が暮れてくると人出は増え、神社は一層賑やかになります。ぶら下げられた裸電球の光で屋台が浮かび上がり、子供や家族の笑い声が聞こえ、屋台からは香りが漂ってくるようです。

それは、お祭りや縁日に興味を持ち全国をスケッチ旅行した著者が丹念に描いた絵の力です。文字がないことで読み手は一層、縁日の世界に引き込まれていきます。

わが家の子供たちが幼かった頃、この絵本を一緒に楽しみました。両親に買ってもらった縁日のひよこが成長してニワトリになったことを懐かしく思い出す私の横で、子供たちは縁日にひよこが売られていることに驚きました。長く読み継がれてきた絵本だからこそ、読み手の年齢層や体験によって味わい方も異なります。

子供たちは「綿菓子食べたね、ひよこも買ったよ。それから…」と登場人物の兄妹の姿を追っていきました。縁日の全景ページでは、兄妹が歩いた順路を確かめ、緻密に描かれた神社や縁日にやってきた人々の姿に興味を持ちました。最後に兄妹が両親と会えた場所を再び全景ページで確かめるなど、見つける面白さを味わいました。コロナ禍の中、絵本の中で縁日を楽しんでみませんか。

(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)

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