活用広がるメタバース 東大が9月「工学部」開設 年齢・性別・距離の垣根ない知の拠点に

インターネット上の仮想空間「メタバース」が、これまで盛り上がりの中心だったデジタル広告やネット通販以外でも活用が広がっている。東京大学はメタバースを使った教育プログラムを9月に開設すると発表した。メタバースは、通信技術など基盤を支える技術開発が進んでおり、対象や用途を広げていくことが定着の鍵を握るといえそうだ。

東大が開設するのは「メタバース工学部」。正式な学部ではないが、アバターと呼ばれる分身を操作するメタバースの特性を生かし、年齢や性別、居住地に関係なく、工学系教育の情報を提供し、学べるシステムを構築する。

「工学キャリア総合情報サイト」を立ち上げ、工学系人材の将来設計に役立つ情報を交換する機会を設けたり、中高生が進路を決めるために工学部の実情に触れる研究室見学などを実施したりする。社会人向けの学び直しを支援する講習も来年度以降に開講する計画だ。工学部生がメタバースの運営を通じて、最新のデジタル技術を学習できるようにする狙いもある。

東大大学院工学系研究科の染谷隆夫研究科長は「学生の均一化が課題になっている。新しい考えや広がりのある人たちが議論に参加し、意見をぶつけ合うことが東大の教育を高めることになる」と明かす。

特に力を入れるのが、女子中高生への情報発信だ。東大の女子学生の在学率は約2割、工学部は約1割にとどまる。女子の先輩が少ない工学部では将来設計が見通せないと、農学部など女子人気の高い学部を選ぶ学生も多いという。

一方、人工知能(AI)やデータ分析など、ますます需要が高まるデジタル技術は工学系の研究を基礎としている。工学部の学生の多様化は東大にとって喫緊の課題でもある。社会人や学生が垣根を越えて議論できるメタバースを通じて、〝象牙の塔〟といわれる大学を開かれた知識の総合拠点に変えたい考えだ。

デジタル広告などを手掛けるバスキュール(東京都港区)は、国際宇宙ステーション(ISS)での船外活動を体験できるメタバースを開発している。実際の位置情報と連動し、ISSから見える地球の様子などを再現、宇宙遊泳を疑似体験できる。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携し、宇宙利用の拡大に一役買うのが目的だ。今後は連携する企業を増やし、ISSがロケットなどとドッキングする様子なども体験できるようにしたいという。

バスキュールの朴正義社長は「リアルの社会では離れていても、同じ活動ができる空間が増えていくことがメタバースの成功につながる」と指摘する。

大日本印刷(DNP)は宮下公園(同渋谷区)や秋葉原(同千代田区)の街並みを再現するメタバースを構築。オンラインイベントを開催するなど、自治体と連携した活用を進める。

新型コロナウイルス禍でデジタル化が加速し、メタバースが流行語となった。各社はコンピューターグラフィック(CG)や円滑なコミュニケーションを可能にする高速通信などで、リアルと変わらない体験ができる〝没入感〟を求める技術開発を大きな方向性として打ち出している。

米IT大手メタ(旧フェイスブック)日本法人の味澤将宏社長は「メタバースは1社で作れるものではない。1社独占ではないオープンな場をつくる」と述べ、メタバースにさまざまな業界や企業、組織を巻き込んでいく必要性を強調する。(高木克聡)

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