どこにある?抗原キット品薄…背景に政府の新方針

抗原検査キットが品薄状態になっている薬局=2日、大阪市内
抗原検査キットが品薄状態になっている薬局=2日、大阪市内

新型コロナウイルスの流行「第7波」による感染拡大で、感染の有無を調べる抗原検査キットが各地で深刻な品薄状態に陥っている。不足を訴える医療機関もあり、各自治体は備蓄していた検査キットを配布するなどの対策に乗り出した。

「必要量には到底足りない」。大阪市中央区の「セレブ薬局天満店」の女性店長(40)は検査キットの在庫状況を見て嘆いた。

先月28日に約20個の検査キットを入荷したが、翌日には売り切れた。来店して買い求める客や問い合わせの電話が1日に10件近くあるが、現在も品切れの状態が続く。在庫のあるグループ店舗から多少の数量は融通してもらえる予定だが、それでも足りないという。女性店長は「風邪薬や喉の痛み止めを購入するお客さんのなかにはコロナかもと思う人もいる。検査キットがないことで病院を受診しない人もいるのかもしれない」と感染拡大を心配する。

社会医療法人「弘道会」が運営する「守口生野記念病院」(大阪府守口市)など4病院でも、1週間ほど前から発熱外来の患者が急増。陽性者の特定にPCR検査と抗原検査を併用しているが、病院前には早朝から発熱外来を受診するための患者が列を作り、受診を断るケースもあるという。検査キットは治療に急を要する患者に優先して使っている状況で、同法人の生野弘道理事長は「かつてないスピードで感染者が増えており、供給が追いついていない」と話す。

感染者急増と医療逼迫(ひっぱく)への対策として、政府は濃厚接触者の待機期間を最短3日間に短縮する方針を示している。

ただ、3日間で待機期間を解除するには、2日目と3日目に抗原検査で続けて陰性を確認する必要がある。厚生労働省は7月19日時点で1億8千万回以上のキットの在庫を確保しているとしているが、1人が2回ずつ使った場合、全国民には行き渡らない。

日本医師会の松本吉郎会長は同27日の記者会見で、「現場には(検査キットの)不足感が非常に強い。国は十分な量があると説明するが、実際にどこにどのような状況であるかはつまびらかにされていない」と注文をつけた。

感染急増、自治体は対応急務

このため、独自に供給ルートの確保に動く自治体もある。大阪府では、今月1日から約2700の医療機関に向けて検査キットを1個千円で配布する取り組みを始めた。府は約50万回分を備蓄しており、病院は上限400回分、診療所は同200回分を配布する。

京都府は発熱外来を設ける府内の920医療機関に対し、負担軽減を目的に検査キットを無料配布している。府によると、当初の予定より配布が遅れたが、今月1日時点でほぼ完了した。第1陣は50回分で、近く50回分を追加して配布する方針。愛知県では6月上旬までに計52万回分を県内の学校や保健所に分配したが、7月下旬時点で計約7万回分の在庫があり、不足している医療機関に融通している。

一方で、京都市上京区内の病院の担当者が「診療を求めて病院まで来る人に『家で検査してください』というのは、いかがなものか」と話すように医療機関からは戸惑いの声もあがる。

関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「検査キットの不足が深刻化すると、検査の対象に優先順位をつけざるをえず、重症化リスクが低い若年層が十分に検査を受けられずにさらに感染が拡大する可能性がある。国や自治体などがメーカーにインセンティブをつけるなどして、一定の生産量を確保する必要がある」と話している。(吉国在、尾崎豪一、平岡康彦)

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