水分を吸収して発熱する合成繊維を使ったウェア、摩擦を減らして競技の高速化を実現した水着…。素材も技術も日進月歩の衣料品の世界において、製造工程もブランド名も変えず、70年間愛されてきた肌着がある。その名も「アサメリー」。夏にこそ着てほしい肌着にして、その特徴を的確に表す言葉は、さらりでもさっぱりでもなく「シャリ感」。「一度着てみたらわかります」と担当者が口をそろえる売り文句も、販売開始当時の「とにかく、いっぺん着てみとくなはれ」と変わらない。変化する時代の中で、なぜ70年も愛され続けてきたのか。国産肌着「アサメリー」の歴史と真価に迫った。
夏こそ「肌着」
夏に肌着は着る?着ない? 直接シャツを着て、日光に透けたり、服が汗で染みたり肌にはりついたりするのはイヤだけれど、身に着けるものは1枚でも少なくして暑さを乗り切りたい。そんな悩ましい夏の肌着事情に、ついに終止符が打たれるかもしれない。
「夏こそ、着ていただきたいんです」
そう熱く語るのは、「アサメリー」シリーズを販売する大手肌着メーカー「フジボウアパレル」(東京都中央区)直販部の吉田賢部長だ。
「今までの綿のイメージがくつがえされると思います」
「着てみたときの衝撃がすごいんです」
「初めて着る感覚だと思います」
…次々に畳みかけられる。
少しでも薄く、涼しくあってほしいのが夏の肌着。「アサメリー」は何が違うのか。その着心地を体験する前に、まずは「アサメリー」とは何か、その歴史と製造方法について吉田部長に聞いてみた。
五・七調に隠された「名前の秘密」
「麻に似て、麻にも勝る、肌触り」
吉田部長の説明は、ちょっとレトロ感がある「五・七調」のコピーから始まった。
アサメリーの「アサ」は文字通り「麻」のこと。では「メリー」とは?編み物(ニット)のことを指す「メリヤス」から取られた。
麻は通気性も良く夏場に適した素材だが、チクチク感があり肌着には向かない。また、扱いが難しく、クリーニングが必要で、毎日洗う肌着には適さない。それならば、「麻」の良いところを「綿」で実現させよう、と考えたのが開発の始まり。
平成24年(2012)に富士紡グループに加わった「アングル」が、大正・昭和初期から試行錯誤を続け、昭和28年(1953)に現在に通じる製法技術を完成させた。来年で70周年を迎える。昭和の職人たちが、綿100%の糸と加工の工夫により、麻のチクチクした感じをなくし、それでいて涼やかな麻特有の「シャリ感」を実現させた。まさに「麻に勝る」快適な肌触りの「麻加工メリヤス」こそが「アサメリー」なのだ。
昭和天皇に百貨店を通じて下着をお納めするなど、皇室の御用達としても知られるアングルの新しい肌着として、「アサメリー」はたちまち百貨店の人気商品になった。当時は、本当に麻でできていると信じる人も少なくなかったという。
「高温多湿の日本の夏に適した肌着です。70年以上前の先人たちが技術と知恵を結集して完成させました。基本的な製法は現在まで変えていません」(吉田部長)
当時の職人も、まさか70年後も同じ製法で作り続けているとは想像していなかっただろう。
シャリ感と肌触りの良さを両立「素材と製法の秘密」
機能性を前面に打ち出し、比較的廉価な化学繊維の肌着が主流となった近年でも、綿100%の天然素材で、昭和から受け継いだ製法を守り続ける「アサメリー」。その自信は、愚直ともいえる「ものづくり」への姿勢にある。
繊維製品品質管理士の資格も持つ吉田部長は、「極細の糸を強くよるので、使うのは繊維長が長い良質な綿だけです」と胸を張る。アサメリーに使用されているのは、フジボウグループが自社生産する繊維の長い良質な綿から作った糸だ。
一般的に、柔らかい肌触りが求められる肌着には、強いよりをかけない糸の方が向いているとされる。ところが、アサメリーに使う糸は、極細糸を強くよったもの。ここにもアサメリーのこだわりと独自の技術が生かされている。「強いより」を徹底しながら、加工や編み方の工夫により、「麻のようなシャリ感を保ったまま、肌触りの良さや快適さを追求する」という難題を可能にしたのだ。
1本に強くよられた糸は、表面の毛羽(ケバ)を落とすためにガス焼きされる。この工程を入れることにより、肌に接する糸がなめらかになり、汗も吸い上げやすくなる。糸の毛羽が少ないため、編んだ時に空気が抜ける穴が大きくなり、通気性も高まる。
生地の編み方にもこだわりがある。
「フライス編み」という編み方により伸縮性が生まれ、生地が体にぴったりとフィットする。フィットすると暑いのでは?と思われてしまうかもしれないが、編み目の隙間が大きいため、通気性が良いのだという。糸が汗を吸い込んだ後、空気中に発散させる効果も高まる。
特徴的な工程はどれも、「シャリ感」や「肌触り」を追求するため。原材料の良さや手間がかかる工程には、同業者から「この(安い)価格で大丈夫か」と心配されることもあるそうだ。
変わる販売環境、変わらぬ驚き
70年もの間、変わらないものづくりを行ってきた「アサメリー」にとって、一番大きく変わったのは販売環境かもしれない。
アサメリーが発売された当時、人々がちょっとおしゃれな買い物をする場所といえば、百貨店だった。蒸し暑い日本の夏に適したアサメリーの肌着は、夏のお中元の定番商品。スーツやワイシャツなどと一緒に購入していくお客さんも多かった。
ところが時代は変わり、買い物は実店舗でなくインターネットで、という人が増加。コロナ禍により、この流れは加速した。経済産業省の統計によると、平成22年(2010)に7兆7880億円だったEC市場は、令和元年(2019)には19兆3609億円にまで拡大している。
さらに、「ユニクロ」などファストファッションが肌着分野に本格進出し、肌着に「安さ」を求める消費者も増えた。フジボウアパレルが今年4~5月、20~60代の男女各300人に行ったアンケートでも、肌着を選ぶ際に男性の71%、女性の78%が「価格を気にする」と回答し、「素材」や「機能」を上回った(複数回答)。
こうした社会変化の中、アサメリーの新たな販路として注目されているのが、ECサイト「アングルオンラインショップ」だ。百貨店に比べ若年層の利用も多いネット通販は、これまでアサメリーを知らなかった若い世代との出合いの場でもある。
アサメリーの肌着の中心価格帯は3000円台。決して安くはないが、ECサイトでは、原材料へのこだわりや製造の手間を丁寧に紹介し、品質の良さを理解してもらえるよう工夫している。
商品の展開にも新たな挑戦をしている。「アサメリーは夏になくてはならない。ずっと作り続けてほしい」という長年の愛用者を大切にするのはもちろんのこと、次世代の顧客層を作っていく試みとして、アパレルブランドやセレクトショップなどとコラボレーションも進めているのだ。アサメリーの素材や製法を生かしたコラボ商品の展開で、「モノ」へのこだわりが強く感度の高い新たな客層にも支持を拡大中だ。
やっぱり夏こそ「肌着」
ここまで理解した上で、実際にアサメリーの肌着の主力商品のひとつ、女性用タンクトップを手に取ってみる。
まず最初に、指で触れた布の感触に驚く。夏用肌着の素材と言えば、柔らかく、すべりの良いなめらかなもの、と思っていた。ところが、アサメリーは違う。一言で言うと布に「シャリ」感がある。ブランドのうたい文句とは違う文言をなんとかひねり出したいが、やはりこれは「シャリ」感としか言いようがない。
「柔らかければ肌に良いと思われがちですが、アサメリーは逆の方向です。綿100%と言われて想像するのとは違う肌触りだと思います」という吉田部長の言葉が思い出される。なるほどそういうことか。
だが、この「シャリ」感の印象は、実際に身に着けてみるとまた変わる。指先で感じたようなシャリ感はそこまで強くなく、予想以上に肌にしっとりとなじむのだ。夏の肌着とあって、シャリッとはしているが、肌に触れてもごわつくことがない。布地の伸び具合もちょうど良く、体のラインに沿う。確かに布地の柔らかさはそこまでないが、代わりにしなやかさがある。
上にシャツを羽織ってみた。空気がこもる感じがまったくなく、下着(ブラジャー)との間にも空気が通っている感じがある。汗をかいてもいつの間にか吸収されている。通気性が良くムレにくいという商品の特徴をすぐに実感できた。
「気温30度を超える蒸し暑い午後に屋外を歩いたが、肌着がベットリと密着する不快感がなかった。帰宅して脱ぐと、汗はびっしりかいているものの、肌着も羽織ったワイシャツも想像以上にサラッとしていた」とは、やはりアサメリーの肌着を初めて試した先輩男性の言。もちろん肌触りに好みはあろうが、夏の肌着としてかなり快適なのは間違いない。
同社のアンケートでは、男性の33%、女性の40%が「夏用の肌着を持っていない」と回答した。理由はさまざまだろうが、アサメリーの肌着は、ムレや染みといった夏の肌着の悩みを解決するひとつの選択肢だ。
70年もの間、愛され続ける肌着の正体は、こだわりの素材と独自技術、何より先人たちの思いとプライドの結晶だった。
提供:株式会社フジボウアパレル