「映画のまち」尾道 受け継がれる大林宣彦監督の遺志

尾道映画祭開催前に準備を進める実行委員会のメンバーら=広島県尾道市
尾道映画祭開催前に準備を進める実行委員会のメンバーら=広島県尾道市

大林宣彦監督や小津安二郎監督作品の舞台として知られる広島県尾道市で、市民らの手で作る「尾道映画祭」が6月中旬に開催された。新型コロナウイルスの感染拡大の影響でいったん中止となったが、実行委員会の尽力で日程を変更して開幕にこぎつけ、関連イベントを含めると3日間で観客約3千人を動員。回を重ねるごとに反響を集める映画祭の裏には、大林監督の志を引き継ぐ人々の使命感や若者らの熱い思いがあふれていた。

著名人らも協力

尾道市民らによる手作りで「映画のまち」の魅力を発信している尾道映画祭。平成29年に始まり、6回目の今回は、6月17~19日に開催された。

約50年前の尾道を舞台にした自主映画「逆光」の須藤蓮監督(26)が参加者とロケ地めぐりをするイベントで始まり、残りの2日間で映画12本を上映。上映作品の映画監督を集めたシンポジウムや、須藤監督と若い映画愛好家らの対談なども実施され、活気にあふれた映画祭となった。

俳優や著名人らも協力。2日目には尾道市向東町出身の漫画家、かわぐちかいじさん原作の映画「空母いぶき」が上映され、かわぐちさん自身も登壇した。

かわぐちさんは「尾道は文化のまち」と強調。カンヌやベネチア国際映画祭のように「(尾道映画祭が上映した映画は)尾道が認めた映画、という形で話題になるレベルになってほしい」と熱く訴えた。

尾道映画祭のトークイベントに参加し尾道への思いを語った漫画家のかわぐちかいじさん
尾道映画祭のトークイベントに参加し尾道への思いを語った漫画家のかわぐちかいじさん

若手を育てる

尾道映画祭を作り上げてきた1人でもあり、尾道市の喫茶店オーナー、大谷治さん(70)は、大林監督の尾道三部作の1作目「転校生」から遺作の「海辺の映画館-キネマの玉手箱」まで、「大林組」の尾道スタッフとして、長年支えてきた。

大林作品にはスポンサーが降板し、製作が危ぶまれた作品もあったが、それを支えたのが尾道の市民だったという。熱い思いをもった市民有志らがフィルムコミッション的な役割を担い、ロケを支え、作品を作り上げたこともあった。

開発からまちを守る大林監督の「まち守り」の姿勢もこうした人々に引き継がれ「映画のまち」が形成されていった。

大谷さんが力を注ぐのが後継者づくり。尾道映画祭は「尾道への動員も目的だが、役割の一つとして、街のオーガナイザー(まとめ役)を育てるという気持ちがあった」という。

尾道映画祭実行委員会の中心となって盛り上げた大谷治さん(右)と亀田年保さん
尾道映画祭実行委員会の中心となって盛り上げた大谷治さん(右)と亀田年保さん

若者たちを魅了

大谷さんが後継者として期待を寄せるのが、元読売テレビの亀田年保さん(52)。50歳を機に読売テレビを退職。地元尾道に貢献したいと戻ってきた。

映画祭には第4回の頃から携わり、局時代の人脈や経験を生かして、ビジネス的な側面をフォロー。ほかにも多くの若者や映画関係者が魅了されている。

「逆光」ツアーを担当した尾道観光協会の林智典さん(34)は「映画祭にいろんな可能性を感じた」といい、映像ディレクターの箱田泰史(たいし)さん(31)は「若者の映画を積極的に上映するなど、みんなでつくっていける映画祭だと感じた」と話す。

ドライブインシアターを企画するなどしてきた箱田さんは今後、そうした場を若手のチャンスの場にし、「尾道映画祭でも野外シアターのように新たな見方を提供したい」と意気込む。

10月公開の映画「津山城下町~文太がゆく~」などに出演する演出・演技講師で俳優の堀崎太郎さん(55)もそんな1人だ。

令和元年に関東から因島に移住し、実行委員会メンバーに。「尾道映画祭は、ライフワーク」といい、映画祭では司会も務め、「ひとたびごとに使命感を感じる」と話す。

大林監督の追悼となった昨年2月の尾道映画祭は特に印象深いという。平成3年公開の映画「ふたり」のテーマソング「草の想い」の生演奏に、オンラインでゲスト出演した大林監督の妻、恭子さんのほおに涙が伝うのを見て、堀崎さんは「意義深い事業に立ち会っているということをすごく感じた」と振り返る。

今回は、恭子さんと長女の千茱萸(ちぐみ)さん、主演の石田ひかりさんをゲストに、映画「ふたり」を上映。「撮影された尾道のスクリーンで尾道の皆さんと映画が見れることに大きな意義がある」と堀崎さんはいう。

最終日に「逆光」の脚本家、渡辺あやさんらを招いた談義イベント「映画で未来は変えられるか⁉」を手掛けた市民団体「尾道フィルムラボ」代表の北村眞悟さん(45)は「独特の景観や歴史を持つ尾道の古いものを守り、それが尾道の魅力だと強く思う若い世代は多く、それを未来に残したいという意識がある」と話した。(嶋田知加子)

会員限定記事会員サービス詳細