ザ・インタビュー

不愉快なことを愉快に書く 作家・群ようこさん新著「スマホになじんでおりません」

エッセイ「スマホになじんでおりません」を書いた作家の群ようこさん(飯田英男撮影)
エッセイ「スマホになじんでおりません」を書いた作家の群ようこさん(飯田英男撮影)

大半の大人ばかりか小学生でも持っているスマートフォン。片時も手と目を離さず、新機能を備えた機種が登場すれば、買い替えようとそわそわしだす。まるで最初に手に入れたときの苦労などなかったかのように…。

しかし記憶力抜群の作家は、苦い経験を忘れない。エッセー「スマホになじんでおりません」(文芸春秋)で怒りをぶちまけた。

「何から何までパスワードが必要、メモしてくださいとお店で言われ、パニックになった。理屈がわからないから覚えられない。パソコンと違って文字を打つ画面は小さいし、充電作業も面倒くさいし…」

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令和元年秋にスマホを購入。その数カ月後、テーマを示されることなく文芸誌から連載依頼があった。「四苦八苦していたスマホのことなら、進行形で書けるのでは」。つまり一定の分量を執筆できるだけの材料=不満がたまっていたのだ。

友人への愚痴が発端だった。飼っている猫を病院へ連れていく際、タクシーが自宅の固定電話からではつながりにくくなったと伝えると「スマホが優勢、すぐに呼べるから」と真偽不明の材料で説得され、導入に踏み切った。確かにタクシー会社へは格段につながりやすくなった。しかし愛猫はまもなく22歳7カ月の長寿をまっとうし、スマホの必要性は遠ざかる。LINEのスタンプにも、勧められたゲームにも熱中するほどではない。花の名前を教えてくれるアプリや地図は、正確さに疑問あり。

「トイレにまで持っていく人、命と同じくらい大事という人がいるらしいけど、自分がスマホを持って、その感覚がよりわからなくなった。そんなに見続ける必要ないじゃないって」

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古アパートに住む人々の幸せをつづった「れんげ荘」シリーズや、映画化された「かもめ食堂」など多くの小説、エッセーを手掛けてきた。当初は編集者になりたかったが大学卒業時、出版社の募集はなく新聞広告の求人で見つけた広告代理店へ。しかし激務のため半年で退社。その後も上司とそりが合わなかったりで、転職を繰り返した。

専業作家として軌道にのると、月に15本の締め切りに追われるなど忙しい日々。しかし40代前半に災難が…。自らは住まないのに、母と弟が建てた実家の費用の3分の2を払うよう求められたのだ。

「娘のことを財布と思っていた。私の銀行口座に96円しかなく、質屋に時計を売りにいったことも。ものわかりのいい親ならエッセーのネタにはなっていないから、回収できたのかな。怒りが原動力になって、仕事がはかどるのかも」

同じように、多くのスマホ初心者が感じたであろういらだちを、自らの失敗談を引き合いに、笑いをもたらすエッセーに仕立てた。

作家生活もまもなく40年。「(会社に)勤め続けても別の人生があったのかもしれないけど、仕事もいただけ恵まれていますね。これからも無理をせずに書いていきたい」。膨大な著作数は、まだまだ増えていく。

むれ・ようこ 昭和29年、東京都出身。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務などをへて「本の雑誌社」へ。在職中から執筆を始め59年に「午前零時の玄米パン」でデビュー。「無印良女(りょうひん)」「鞄に本だけつめこんで」などのエッセーのほか、「パンとスープとネコ日和」シリーズ、「母のはなし」など小説を多く刊行している。

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