ダニーの食読草紙

元殺し屋シェフがつくる癒やしの絶品バーガー

今回紹介する『ダイナー』は、元殺し屋が経営するアメリカ式定食屋、すなわちダイナーを舞台にした物語である。

主人公である「オオバカナコ」は、闇サイトの高報酬につられて怪しげなバイトに手を出してしまい、「組織」襲撃の片棒を担がされてしまう。当然の如く襲撃は失敗し、主犯2人とともに「組織」に拘束された主人公は、代償として元殺し屋の「ボンベロ」が店長を務める殺し屋専門の定食屋「キャンティーン」でウエートレスを務めることとなる。

死と隣り合わせの生活をしている客の殺し屋たちは気性も荒く、その相手をしなければならないウエートレスも一歩間違えれば死の危険がある最悪の職場だったが、その殺し屋たちの精神をも救うボンベロの料理は本物で、事件が起こる中で店内の結束は深まっていくこととなる。

ボンベロは客に合わせてさまざまな料理を作るが、中でも一番食べてみたいと思わされるものは、懇親会のために特別に作られたハンバーガーセットだ。

電話帳よりも分厚いといわれるハンバーガーの中身のパティは、それぞれ仔鹿、仔羊、鴨、牛肉、豚、熊の6枚で構成されており、間には新鮮なレタスやトマトが挟まっている。パティごとに別のソースを使用するほどにこだわった肉の競演は「濃厚な肉のアンサンブル」と描写され、読んでいるだけでも肉汁への恋しさが湧いてくるほどである。さらに付け合わせにはチリコンカーン、フライドポテト、オレンジジュースと、まさに食べたかったハンバーガーセットといえるだろう。

内容も料理描写も濃厚な一冊、夏バテに抗うためエネルギーをつけるのにいかがだろうか。 (将棋棋士 糸谷哲郎八段)

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