久保田勇夫の一筆両断

長期化するウクライナの戦い

久保田勇夫氏
久保田勇夫氏

2月末のロシアによるウクライナ侵攻で始まった戦争は、当分収まりそうもない。この記事が紙上に掲載されるときにも残念ながらそうであろう。

戦況については報じられている通りである。首都キーウ(キエフ)の占領を目指したロシアは、もともと自国と結びつきの深いウクライナ東部に攻撃の主目標を移し、人的、物的に相当の損失を負いながらも、その地域のウクライナからの独立、そうでなくともロシアとのさらなる一体化を目指しているようである。ウクライナはロシアの侵攻そのもの、およびその戦争行為が不当かつ人道に反するものであり、自国の独立とその領土維持のための戦いを続けるとし、さらなる武器供与とロシアへの制裁の強化を西欧諸国に求めている。

現時点では、どの国も終結へのシナリオを準備しているとは思われず、自国を取り巻く環境と、それを踏まえたそれぞれの思惑に従って行動しているに過ぎないように思う。

好ましくない世界的変化

既に5カ月に及んでいるウクライナにおける戦いは世界にさまざまな、多くは好ましくない、変化をもたらしつつある。

第一に経済面では、この戦争に起因するエネルギーや食料供給の不安定化、および主として製造業のサプライチェーンの不具合により、日常生活に密着した物やサービスの物価上昇をもたらし、それは今や世界的なインフレに転じつつある。これらが同時に、コロナ禍から回復基調にあった経済成長を押し下げていることは言うまでもない。

経済政策面ではこのような事態に対応して、わが国を除く主要国は金融の引き締めに転じ、それが各種の好ましくない事態をもたらしている。予想外に速いペースの金利の引き上げは国際金融市場、為替市場の不安定化を生みつつある。

具体的には海外からの借入金に依存している途上国の債務問題、通貨ユーロの不安定化の兆しである。最近の急速な円安の進展もその一環である。西欧諸国のロシアに対する経済制裁も、このような動きを助長するものではあれ、緩和するものではない。西欧諸国によるロシアの外貨準備資産の凍結による同国のデフォルトの可能性もその一つである。

政治面での変化は、より顕著である。ヨーロッパとアメリカとの間には、これまでロシアに対する安全保障政策の視点に大きな差があったが、それが解消された。すなわち西ヨーロッパの主要国には既に冷戦中から、ソ連(ロシア)とそのエネルギーを媒介とした協力関係を築くことにより、その安全保障を確保する思想が存在した。近年の地球温暖化対策の重要性の高まりに伴い、このエネルギーのロシア依存の傾向はさらに強まり、アメリカが指摘し続けてきたように、安全保障上の視点が軽視されてきたのである。

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