五輪レガシー、次代へ継承 競技施設、収益向上目指す

東京五輪開幕から1年。国立競技場周辺では五輪モニュメント前で記念撮影する子供の姿も=22日午後3時13分、東京都新宿区(萩原悠久人撮影)
東京五輪開幕から1年。国立競技場周辺では五輪モニュメント前で記念撮影する子供の姿も=22日午後3時13分、東京都新宿区(萩原悠久人撮影)

東京五輪・パラリンピックで使用された国立競技場をはじめとする各競技施設は、大会後もレガシー(遺産)として活用が期待されている。施設は巨額の維持管理費と収益赤字を抱えているが、公共施設として収益改善のみを図るわけにいかないのも実情だ。多くのアスリートが躍動し、日本国民に感動を与えた名場面の舞台。次世代にレガシーとして継承していくにはどうすればよいのか。今後の対応にも注目が集まる。(外崎晃彦)


収益安定に期待


「国立競技場がまた世界的なアスリートで競い合う舞台になり、東京でもてなすことができればと思っています」。国立競技場が2025(令和7)年の陸上世界選手権の会場として使用されることが決まった15日、東京都の小池百合子知事は笑顔でこう語った。

メインスタジアムとして東京大会を象徴する建物となった国立競技場だが、新型コロナウイルスの感染拡大により、大会中は開閉会式のみならず、実施全競技はほぼ無観客で行われた。

だからこそ、大規模な国際大会である世界陸上を観客入りで開催し、国内外に向けてその存在を発信する大きな機会にする-。関係者らの間には、こんな期待が膨らんでいる。

同施設は建設に約1569億円もの巨費が投じられ、完成後も約50年間にわたり毎年約24億円の維持管理費が生じると試算されている。国は民間への売却を模索してきたが、買い手はなかなか決まらない。

事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)としては、世界陸上を一過性のイベントに終わらせず、大きなイベントの開催につなげて収益基盤を安定させたいという思いがある。「国内外で国立競技場への関心が高まれば、認知度向上や新たな施設利用の増加につながると考えている」と広報室担当者。その上で収益安定に向け「施設の積極的な利活用による収入確保や、実際の運用過程における経費削減の取り組みを徹底する」という。

ただ、コロナ禍の先行きも見通せない中、今後の利用をどこまで増やせるかは未知数だ。

スポーツ振興の使命

都内には都が運営する施設として、東京アクアティクスセンター▽海の森水上競技場▽有明アリーナ▽カヌー・スラロームセンター▽大井ホッケー競技場▽夢の島公園アーチェリー場-の6施設があるが、そのうち、有明アリーナを除く5施設で、マイナス収支が見込まれている。収支改善が今後の課題だ。

このうち東京アクアティクスセンターは光熱水費や人件費、設備維持・保守などの費用がかさみ、年間約6億3800万円の赤字となる見通しだ。今はネーミングライツ(施設命名権)の導入や企業広告獲得などで収益向上を目指す。

5施設の赤字総額は計約11億円だが、都としては公共性を踏まえ、いずれの施設も収益のみを念頭とした運営はできず、一定のマイナス収支は織り込み済みではある。都の担当者は「都民の健康づくりやアマチュアスポーツ、障害者スポーツの振興という観点から利用しやすい料金設定を優先する必要がある」として理解を求めている。

オリパラのレガシー施設に詳しい追手門学院大社会学部の上林功准教授は、「都民の利用を考えると利用料を上げられないのが実態だろう」と指摘。そのうえで、「都全体の施設で収支の最適化を図り、多様な利用者に向けた施設とすることで、金銭では測れない価値の最大化を目指すことが重要」と話す。

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