チンアナゴ「ステイホーム」で上手に食事

速い水流の中で、巣穴からわずかに体を出すチンアナゴ(沖縄科学技術大学院大の石川昂汰さん提供)
速い水流の中で、巣穴からわずかに体を出すチンアナゴ(沖縄科学技術大学院大の石川昂汰さん提供)

砂の中からひょっこりと顔を出し、ゆらゆらと揺れる愛らしい姿で、水族館でも人気のチンアナゴ。海の中を自由に泳ぎ回るのではなく、海底の巣穴でほぼ一生を過ごす。究極の「ステイホーム」ともいえる状態でどうやってエサを得ているのか。その独自の戦略が沖縄科学技術大学院大の研究で明らかになった。

チンアナゴは警戒心が強く、ダイバーや捕食者など動くものが近づくと、すぐに巣穴に隠れてしまう。このため、自然環境下のチンアナゴがどのように摂食しているのかを観察することが困難で研究が進んでいなかった。今回、研究チームは、世界初の試みとして実験室内でチンアナゴの摂食行動を観察することに成功した。

水の流れを作ることができる回流水槽に砂を敷き詰めて、自然環境に似せた状態でチンアナゴを飼育。流速は毎秒0・1メートルから0・25メートルまで4段階に調節できる。エサとなる動物プランクトンを放流したときに、それぞれの流速でどのような動きをするか撮影し、人工知能(AI)の技術を用いて解析した。

遅い水流の中で、巣穴から体を伸ばしているチンアナゴ(沖縄科学技術大学院大の石川昂汰さん提供)
遅い水流の中で、巣穴から体を伸ばしているチンアナゴ(沖縄科学技術大学院大の石川昂汰さん提供)

すると、水流が速くなるほど、チンアナゴは体の多くの部分を巣穴に隠し、巣穴近くに狙いを定めて捕食していることが分かった。外に出ている部分が短くなると狙える範囲は狭くなるが、流速が早いほど流れてくるエサの量は多くなる。素早く体を動かして上手にエサを捕らえる確率を高めている様子が観察されたという。

また、流速によって食べる量がどう変化しているかを調べたところ、毎秒0・2メートル弱のときに最大になることが分かった。0・25メートルより速くなると巣穴に完全に身を隠してしまうが、0・2メートルまでは摂食を続けていた。

一方、自由に泳ぎ回れる魚では毎秒0・15メートル程度で最大になるという。

つまり、チンアナゴは自由に泳ぐ魚よりも、さまざまな速さの流れに対応することができ、特に流れが速いときに強みを発揮することが分かった。

研究成果をまとめた論文の筆頭著者で博士課程学生の石川昂汰さんは「巣穴に身を潜めてエサの捕食距離を短くするというチンアナゴ独自の戦略は、流れが強いときに非常に有効的であることがうかがえる」と指摘した。

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