今や暮らしに欠かせなくなったスマートフォン。動画視聴やネットショッピングなどで使う時間が長くなると、健康面に影響が出る恐れもあるという。その一例が、指の痛みや変形を伴う「スマホ指」と呼ばれる症状だ。スマホの世帯保有率は今や9割に迫る。専門家は「かつてないほど、指を酷使する時代になってきている。今までは見られなかった変形や痛みが出る可能性もある」と警鐘を鳴らす。(深津響)
手指の痛みを専門とする富永ペインクリニック(松山市)の院長、富永喜代さんによると、スマホ指は「スマホ使用による過剰負荷に伴う、さまざまな症候群」のことだという。
症状は主に、指の「痛み」と「変形」の2つがある。痛みは、小指の第一関節から付け根にかけて、あるいは親指の付け根で発生し、変形は小指で生じるという。
あてて支える小指に
小指に痛みや変形が起こる主な原因は、スマホを持つ際、手から滑り落ちないようにスマホの下部に小指をあてて支えるからだ。
そもそも指の関節は、まっすぐに伸ばす以外は、手のひらに向かって曲げる方向にしか動かないように靱帯(じんたい)で固定されている。
しかしスマホの下部に小指をあてて支えている間、小指には本来、指が伸縮して機能するのとは別の方向に負荷がかかる。ドラマの長時間視聴などが続き、その負荷が積み重なると、最終的に痛みや、指の変形を生じてしまう。
親指で複雑な動き
一方で、親指の付け根の痛みは、スマホ操作に伴う「酷使」が原因だ。
スマホを片手で持って親指で操作する場合、指は複雑な動きを何回も行うことになる。親指を細かに動かしながら、画面を押したり、なでたりすることを繰り返すと、関節への負荷が積もり、痛みが生じてしまう。
富永さんは、スマホ指の原因を「(操作)回数×負荷の大きさ」と説明する。
スマホは単なる通信手段の域を超え、買い物から娯楽まで、今や生活のあらゆる場面で使うようになった。それに伴い、使用も長時間化。加えて、年々画面が大きな機種も充実してきて、そうしたものを選んで持てば、支える小指への負荷はさらに増す。
もう一つ、富永さんは「スマホには性別や体格に合わせたサイズ展開がされていないことから、子供や女性は特に負荷が大きくなりやすい」とも指摘する。
一度発症した痛みを取り除くことは容易ではない。指は体の末端にあり、痛み止めが効きづらいともいう。富永さんは「痛んでから治すより、事前にケアすることが大事だ。関節は痛めたら完全には治らない」と、予防を促す。
スマホ指対策の基本は「指を負荷から解放し、休ませること」だ。
富永さんは負荷を減らす方法として、持ち方を変えることやグッズを活用することを挙げる。
スマホを持つ際は、小指ではなく、手のひらで支えるようにする。加えて、両手で操作すれば親指の酷使を避けることができる。また、机に置いて使用したり普段とは反対の手で持ったりすることも負荷を減らすことにつながる。
スマホケースは、手になじみやすく持ちやすい形状や、滑りにくい素材のものがよい。スマホの背面につける器具「スマホリング」は、重さを手の全体に分散させて持つことができ、指の負荷軽減に役立つ。
富永さんは「指は一生のパートナー。いかに指を大切に守る環境をつくっていくかが大事だ」と訴えた。