「いまは食欲がゼロ。発表を待っている間も気持ち悪くなっていた。明日以降に食べられるようになれば」。2度目の候補で芥川賞を射止めた高瀬隼子さんは20日夜、突き上げてくる高揚感をこう口にした。
受賞作「おいしいごはんが食べられますように」は、食べ物を通して職場のままならない人間関係を描いた。か弱く、仕事ができないのに上司らに守られる女性と、業務でその女性のしわ寄せを受け、もやもやした気持ちを抱いている女性。私は頭痛でも我慢して仕事をしてるのに、なんで彼女はやらないのに配慮されるの? 頑張って仕事をした方が報われない理不尽さに「心をざわつかせる」とSNSで話題になった。
教育関係の職場で事務の仕事をして約10年。自身は上司の命令に従ってきっちり働くタイプで、繁忙期には終電近くまで仕事をすることもいとわない。
「私自身は、仕事をなんとかこなしてしまう側。きついと思っても、過剰に適応してやってしまう。だからそちら側の人間の話を書きたかった」
子供のころから小説家になるのが夢だった。幼稚園のときにピノキオを模倣した話を書いたのが最初で、小中学生のころは童話コンクールなどを自ら探して応募。大学時代の文芸サークル仲間とは今も同人活動を続けている。
夫と2人暮らし。執筆は平日の夜と土日。いつも何かにむかつきながら書いている。ネタには困らないという。「いま34歳。50歳、60歳、70歳になってもずっと書き続けたい。日常で変だなと思うことや、むかついたりいらついたりした怒りを流さずにつきつめていきたい」(平沢裕子)