24時間営業訴訟が暴いたコンビニ「上納金」の闇

「セブン―イレブン・ジャパン」本部に敗訴し、大阪地裁前で取材に応じる加盟店元オーナーの松本実敏さん=6月23日、大阪市北区(桑村大撮影)
「セブン―イレブン・ジャパン」本部に敗訴し、大阪地裁前で取材に応じる加盟店元オーナーの松本実敏さん=6月23日、大阪市北区(桑村大撮影)

コンビニ最大手「セブン―イレブン・ジャパン」の本部が、24時間営業を取りやめた大阪府東大阪市の加盟店元オーナーとのフランチャイズ(FC)契約を解除したことの有効性が争われた訴訟は6月、大阪地裁が元オーナー側の言い分を全面的に退け、セブン側が勝訴した。一連の騒動は、オーナー側に対し本部側が圧倒的に優位というコンビニ業界の知られざる構造が世間に暴露され、国が見直しを迫る契機にもなった。騒動発覚から約3年半。「闇」は晴れたのか。

本部社員の対応が丁寧に

平成31年2月、大阪府東大阪市の「東大阪南上小阪(みなみかみこさか)店」のオーナーだった松本実敏(みとし)さん(60)が人手不足に悩み、独断で24時間営業をやめたことが、騒動の発端だった。

本部側が契約解除をちらつかせたことが報じられると、全国のオーナーの窮状にも注目が集まった。

経済産業省は同年4月、オーナーの「ブラック労働」の改善に向けた行動計画を策定するよう業界各社に要請。「新たなコンビニのあり方検討会」も立ち上げ、一律で24時間営業するのではなく、「多様性を認めるべき」と提起した。

「高圧的で、仕入れ数の押し付けが当たり前だった本部社員の態度が丁寧になり、オーナーが24時間営業をやめたいと言えば渋々認めるようになった」

松本さんとは別のセブン加盟店の男性オーナー(60)は、本部側の変化をこう話す。ただ、オーナーが窮状に陥る「本丸」は手つかずのままという。

FC加盟店が粗利の一定割合を本部に納めるロイヤルティーの問題だ。

深夜帯は8割弱が赤字

オーナーの大半は、本部側に店舗を用意してもらう。そうした経営形態でのロイヤルティー比率は、セブンの場合、粗利の56~76%。一般的な会計方式によると、売り上げから仕入れ原価の総額を差し引いた額を粗利と呼ぶが、「コンビニ会計」と称される特殊な会計方式では考え方が少々異なる。

売り上げから、実際に売れた商品の原価のみを差し引いて粗利を算出。廃棄した商品の仕入れ代金は、原則加盟店側が負担することになるのだ。

商品が一つでも多く売れるとロイヤルティーが上がるため、本部側にとっては営業時間が長いメリットは大きい。一方、加盟店側は客が減る深夜帯でも店を開けて人件費や光熱費を負担する必要があり、廃棄が増えれば一方的に赤字をかぶることもある。

公正取引委員会が令和2年9月に公表した調査によると、全国8割弱のコンビニで深夜帯の営業は赤字。加盟店側に不利なコンビニ会計は、関係者の間で「コンビニの闇」ともいわれ、売れ残りの値下げ販売の制限や、24時間営業の強制につながってきたとされる。

一連の騒動も後押しし、コンビニ各社は、24時間営業や廃棄ロスに対する資金援助を拡大。オーナー側の待遇改善に前向きな姿勢を見せるものの、利益配分自体を見直す動きは乏しい。

海外に比べ遅れた法整備

「本部の指示通りに経営すると赤字が数百万円になった」「ロイヤルティーで経営が成り立たない」「違約金が高すぎる」「本部が話を聞いてくれない」-

今年5月13日、弁護士や学者、労働組合などでつくる民主法律協会(大阪)が行った「フランチャイズ110番」でも、コンビニオーナーからこうした声が寄せられた。同会の弁護士らが対応に当たるというが、オーナー側に極端に不利な条項であっても、いったん契約が成立すれば覆すことは困難とされる。

同会の清水亮宏(あきひろ)弁護士(大阪弁護士会)は、欧米や韓国、台湾などが法律でFC契約の内容を規制していることに照らし、「日本でも行政によるルール化の動きは出てきたが、本部側の反応は鈍い。本部と加盟店がウィン-ウィンになるには、法整備が必要だ」と訴えている。(西山瑞穂)

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