主張

京アニ事件3年 迅速手続きで再発を防げ

36人が死亡した京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件の発生から3年になる。だが、殺人罪などで起訴された青葉真司被告は2度の精神鑑定が終了したものの、公判前整理手続きは始まっていない。

事件は残念ながら、模倣犯も生んでいる。再発防止には、被告に事件の真相を語らせ、検証を進めることが必要だ。迅速に手続きを進め、凶行を起こさせない社会づくりに生かすべきだ。

青葉被告は「京アニに小説を盗まれた」という身勝手な言い分で、多くの人を殺害しようとガソリンをまき、放火したことを認めている。到底、理解しがたい論理の飛躍である。

事件を機に、令和2年には省令が改正され、ガソリン購入者の身元や使用目的の確認が事業者に義務付けられた。だが、抑止効果には疑問がある。

昨年12月には大阪市北区の雑居ビルに入るクリニックが放火され、26人の命が奪われた。ガソリンを使って放火し、自ら炎の中に飛び込んで死亡した男は、「バイクに使う」などと説明し、容易に購入していた。

ガソリンは揮発性が高く、火勢が強い。京アニ事件ではスタジオ内が一気に炎に包まれ、大阪のビル火災では放火の2~4分後、室内に致死量を超える一酸化炭素が充満したとされる。いずれの事件も、現場にいた人々の命は一瞬で奪われた。

明確な殺意を持った犯行を防ぐことは極めて難しい。だが、未然に摘発する機会はなかったか、防ぐ手立ては何かを探るのは、社会の責務だ。そのためにも、青葉被告には法廷で事件の真相を語らせる必要がある。

遊説中の安倍晋三元首相が手製銃で銃撃され亡くなる未曽有の事件に直面したわが国では、治安に対する信頼が揺らいでいる。事件は、われわれが暮らす社会ではネット検索で簡単に危険物を作る方法を知り、材料調達もできるという現実を浮き彫りにした。

京アニ事件、大阪のビル放火、そして安倍元首相銃撃も、個人の妄念を暴発させる形で起きた蛮行だ。そのような模倣犯を二度と出させないために、社会はどうすべきか。

事件の真相究明を尽くす。それは理不尽に奪われた命に応える、せめてもの努力である。

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