ビジネスパーソンの必読書

情報工場「SERENDIP」編集部

『キリンを作った男』
『キリンを作った男』

通信障害、要人銃撃など不安が増す出来事が続く。落ち着くためには、まず事実を知り、考えることだ。読書が助けになるだろう。

時代をひらく

『キリンを作った男』永井隆著(プレジデント社・1980円)

「一番搾り」「淡麗」といったキリンビールの人気商品の開発・マーケティングに同社社員として携わり、天才とうたわれたマーケター・前田仁氏(1950~2020年)の評伝。

新商品開発を担当するマーケティング部へ異動した前田氏が初めて仕切ったのが「ハートランド」の開発プロジェクト。ラベルのないユニークな緑色のボトルで昭和61年に誕生したこのビールの開発は「極秘作戦」だったという。

当時のキリンは、シェア約6割の、他の追随を許さない業界トップ企業。その売上の中心は「ラガー」だった。変化するであろうビール需要に対応し、ラガーを「叩き潰し」、時代をひらく新商品を生み出すのが、極秘作戦の目的だった。

前田氏は根回しや忖度(そんたく)を嫌う飄々(ひょうひょう)とした自由人だったそうだ。異分野の人脈も積極的に築いていたという。同氏の常識や組織の論理にとらわれない柔軟な思考が、私たちの晩酌を豊かな時間に変えてくれた。

「人」を重視

『経営戦略としての人的資本開示』HRテクノロジーコンソーシアム編(日本能率協会マネジメントセンター・2200円)

『経営戦略としての人的資本開示』
『経営戦略としての人的資本開示』

欧米で取り組みが広がり、日本でも岸田首相が「新しい資本主義」実現のための方策の一つに掲げる「人的資本開示」の包括的ガイドブック。国内外の事例を紹介しながら、基本的な考え方と具体的な方策へのヒントを提供する。

人的資本開示とは、採用、研修、多様性の確保などの人事計画や実行状況、リーダーシップやエンゲージメント(企業と従業員のつながり)に関する数値化されたデータなどを、企業が投資家をはじめとするステークホルダーに開示することを指す。

人的資本開示は財務状況だけではない企業価値を明確にし、それを戦略的に位置づけ、高評価を目指すことで、マネジメントの質や、従業員のパフォーマンスの向上、個々の働き方の改善などが期待できる。

大事なのは経営戦略のコアに「人の重視」を据えるといった根本的な変革を意識して取り組むこと。時代に沿った成長につながるチャンスともいえるのだ。

生物学と工学

『生命機械が未来を変える』スーザン・ホックフィールド著、久保尚子訳(インターシフト・2530円)

『生命機械が未来を変える』
『生命機械が未来を変える』

2004年から12年まで米マサチューセッツ工科大(MIT)初の女性学長を務めた著者が、同大の牽引(けんいん)する「コンバージェンス(集約)2・0」というテクノロジー革命を紹介。20世紀初頭の「1・0」が物理学と工学の集約であるのに対し、「2・0」は生物学と工学の集約だ。

MITのアンジェラ・ベルチャー教授が開発に取り組むのはウイルスが「育てる」バッテリー(蓄電池)。アワビが自然界の物質を合成して炭酸カルシウムの硬い殻を作るのをヒントに、ウイルスが電子回路を作り出せるようDNAを操作する。ウイルスが育てたバッテリーは、低温で合成されるため製造上のエネルギー消費量が小さく、有害物質を排出することもない。

最新技術を社会の持続可能性のために活用できるかは、私たちがどんな社会を作っていくかにかかっている。技術と社会の進歩が歩調を合わせるのが理想なのではないか。

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