バイデン氏「望まぬ油乞い外交」 三菱総研主席研究員・中川浩一氏

中川浩一・三菱総研主席研究員
中川浩一・三菱総研主席研究員

バイデン米大統領による今回のサウジアラビア訪問は、両国の戦略的同盟関係を再活性化するという名目の下、本質的には石油増産を要請する「油乞い外交」だといっていい。

バイデン氏は2021年2月に行った就任後初の外交演説で、米外交の「負の遺産」である中東からの脱却と、中露の権威主義体制との競争へのシフトを鮮明にさせた。また、人権や民主主義などの基本的価値を重視することも明確にしてきた。特にサウジに対しては、18年のサウジ人記者殺害事件をめぐり、ムハンマド皇太子を糾弾する立場をとった。国際的信頼度が地に落ちたと感じたサウジ側の怒りは頂点に達した。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けた原油高で事情は一変した。バイデン氏は「大統領のカウンターパートではない」として皇太子と対話を避けていたが、サウジ側は原油生産に関する決定権は皇太子にあるとして、バイデン氏が皇太子と会わざるを得ない状況を作った。人権問題などでハードルを上げたのは米国側とはいえ、バイデン政権にとっては本来、望まない訪問だったはずだ。

サウジ側は、人権とエネルギーを取引材料に汚名を払拭し、皇太子がサルマン国王の後継であることを明確に内外に知らしめる好機と考えた。サウジとしても、ウクライナ戦争で露製兵器は頼りにならないことが明確になる中で、隣国イエメンの武装勢力フーシ派からのミサイル攻撃を防ぐために米国からの武器購入を必要としており、米国との関係修復は重要な成果となる。

一方で、サウジなど湾岸産油国による石油増産は今後も小出しにとどまるだろう。世界の潮流でもある脱炭素社会の実現に邁進(まいしん)する皇太子には、大幅増産による価格下落や石油のだぶつきによる自国経済への悪影響は避けたいとの思惑がある。

バイデン氏は、中露と対峙(たいじ)しつつ、石油のために中東への「再関与」にどこまで踏み込むのか。今後は、外交戦略全体の見直しも含めて覚悟が問われることになる。(聞き手 大内清)

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