魅せる観光地の作り方

観光列車停車地でおもてなし 佐賀・肥前浜宿

JR肥前浜駅で観光列車「36ぷらす3」の乗客に手を振る地元住民ら
JR肥前浜駅で観光列車「36ぷらす3」の乗客に手を振る地元住民ら

黒光りする列車がホームに入ると、静かな駅に一転して活気があふれる。毎週月曜日にJR九州の観光列車「36ぷらす3」が途中停車するJR長崎線の肥前浜駅(佐賀県鹿島市)。出発までの55分間、乗客は思い思いに町並み散策や地酒の飲み比べを楽しむ。

人口減少の影響で全国の地方鉄道で駅の寂しさが増している。その中で肥前浜駅は、住民の歓迎イベントが評判を呼び、観光業界関係者から一目置かれる存在となった。

きっかけは平成25年に駅ホームで始めた「11分間のおもてなし」だった。

毎週歓迎

肥前浜駅のある鹿島市は佐賀県の西南部に位置し、JR博多-長崎の中間地点にあたる。25年10月、九州を周遊するJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が運行を開始し、肥前浜駅のある長崎線もルートに組み込まれた。

肥前浜駅はかつて蒸気機関車の水補給地点だったことから、線路が3線あり、ななつ星が運行上の都合で週1回、停車することになった。停車時間はたった11分で、乗降ドアも開いていなかったが、地元住民がホームにびっしり集まり、毎週、歌や踊りを披露した。すると数カ月後には、JR九州が乗客が一時下車できるようにし、住民との交流が始まった。

「観光列車の停車をチャンスととらえ、1年半にわたって歓迎行事をした。JR九州と信頼関係ができ、駅でのおもてなしを依頼されるようになった」

地元のNPO法人「肥前浜宿水とまちなみの会」事務局長を務める中村雄一郎氏(73)は語る。

駅周辺には「肥前浜宿」と呼ばれるエリアがあり、江戸後期から昭和初期に建てられた酒蔵が残る。まちなみの会や観光協会のメンバーらは、新たな観光列車の運行に合わせて、町並みガイドや特産品の販売などを企画した。地元に伝わる婚礼歌で結婚するカップルを祝福したこともあった。

丁寧な歓迎イベントの積み重ねで存在感を増し、今では「36ぷらす3」に乗って毎週90人近い観光客が訪れる。20~50代の女性でつくる「賑いODORIKO(おどりこ)ハマガール」代表の稲葉ゆう子氏(57)は「最初は踊り子を集めるのに苦労したが、楽しくやっていると参加者が増えた。活動の場も広がり、若い子たちも地域の愛着を高めている」と話す。ハマガールは昭和歌謡を着物姿で軽快に踊るのが人気で、観客の酒も進む。

「肥前浜にお客さまを運べば間違いない」。JR九州の社員は、その信頼感をこう語る。

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