技術革新を通じて社会変革を起こそうと起業したスタートアップ(新興企業)が集う世界大会が9月、3年ぶりに米国で開かれる。世界への「登竜門」といわれ、2017(平成29)年の第1回を制したのは、保育施設の業務をITで効率化するユニファ(東京都千代田区)だった。優勝を機に、成長に欠かせない資金と人材を獲得。世界が評価した日本発の「スマート保育園」構想の実現と世界展開に取り組む。
ユニファが優勝した大会は、世界最大級といわれるビジネスプランコンテスト「スタートアップワールドカップ」だ。同社を13年に創業した土岐泰之代表取締役最高経営責任者(CEO、41)は「AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用したスマート保育園構想を話した」と当時を振り返る。
同構想が世界で評価されたのは、保育・育児関連の社会課題を解決し、家族の幸せを生み出す新たな社会インフラになり得ると支持されたからだ。これが起爆剤となり、直後に予定した調達額を上回る10億円を集め、19年に35億円、昨年は40億円と国内外の投資家から累計85億円を調達した。認知度も高まり、優秀な外国人エンジニアを採用できるようになった。開発部隊約50人の3割を外国人が占めるほどだ。
ユニファはそれ以来、保育支援デバイスやサービスの開発に注力。今では独自のセンサーを使った「午睡チェック」や体温の自動記録、延長保育料の自動計算・請求といったサービスを提供する。ITを駆使したサービスで保育士の業務負担を軽減し、園児と向き合う時間を増やすことにつなげた。それだけ園児に安全を、保護者に安心を届けられるという。
ユニファのサービスを導入して誕生する「選ばれる保育園」を社会インフラと位置づけ、女性の社会進出と保育士不足という社会課題の解決に挑む。土岐氏は「子供を見守る社会インフラをつくる。日本でしっかり基盤を構築し世界に出る」と意気込む。そのために必要な人材を積極採用し、経営体制も強化した。
「『世界一は無理』という空気があるが、日本発世界を目指す機会を得ることが重要だ」。6月8日に東京都内で開かれたスタートアップワールドカップ2022の記者発表会で土岐氏はこう述べ、日本予選に参加する後輩経営者を励ました。
今年が4回目となる大会には、70以上の国・地域で開催された予選を勝ち抜いた企業が9月30日、米サンフランシスコで開催される世界決勝戦に出場する。優勝賞金100万ドル(1億3500万円)を争う。
日本予選は今月21日に開催される予定で、200社を超す応募企業の中から書類選考を通過した10社が約3000人の視聴者の前でビジネスプランを披露し、代表を選ぶ。10社を対象に総額1億円の賞金も用意された。
大会を主催する米ベンチャーキャピタルのペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマン代表パートナー兼CEOは「メリットは世界規模の投資家らに会えること。資金調達につながり、成長機会を得られる」と強調する。
21日に登場する日本代表候補10社はAIや電気自動車(EV)、宇宙開発、ヘルステックなどのスタートアップで、熱戦が期待される。(松岡健夫)