自民党の安倍晋三元首相の死去は、安倍氏が要職を務めた自民の会議体や議連などの活動に暗い影を落としそうだ。党内保守を牽引する重鎮の安倍氏の意向は、首相官邸や予算編成を担う各省庁が注視し、政策実現に向けた推進力となっていたためだ。羅針盤を突然失った議連幹部らからは今後の活動に不安の声が上がっている。
「これから活動しにくくなった。後ろ盾がなくなったわけだから」
安倍氏が顧問を務めた党内保守系の勉強会「保守団結の会」に所属する中堅議員はこうつぶやいた。同会は安倍氏が主導し、軍事拡張を続ける中国をめぐる政策や歴史認識などをテーマに議論を重ねて「岩盤支持層」の発信源としての役割を果たしてきただけに、喪失感は大きい。
安倍氏不在で党内議論が大きく変わりそうなのが財政政策だ。安倍氏は財政支出をてこに景気を支える積極財政派で構成する「財政政策検討本部」の最高顧問を務め、参院選前に岸田文雄首相(自民総裁)の直轄機関で財政規律を重視する「財政健全化推進本部」と鋭く対立した経緯がある。年末の予算編成を控え、積極財政派の発信力が低下すれば、政府の経済対策に影響を与える可能性がある。
安倍氏が参加した議連は党内抗争の舞台装置でもあった。昨年9月の総裁選前、党内の主導権争いが激化し始めた際に安倍氏は盟友の甘利明前幹事長が会長を務める「半導体戦略推進議連」に最高顧問として参加。同時期に二階俊博元幹事長が主導した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」推進議連にも最高顧問として名を連ね、党内政局の「バランサー」としての役割も担った。
同議連は活動再開を模索しているが、FOIP構想の提唱者である安倍氏を失い、「今後の活動のイメージがまだわかない」(議連幹部)という。(大島悠亮)