認知症の人と地域社会をつなぐ大阪府門真市の市民団体「ゆめ伴(とも)プロジェクトin門真実行委員会」が16~24日、高齢者らが折った2万羽の折り鶴を展示するイベント「いのち輝くツルナリエ」を同市内で開催する。同団体は18日で1000日前を迎える2025年大阪・関西万博のプレイベントとしており、本番では100万羽を会場に飾って国内外からの来場者を迎えるプロジェクトの実現を目指す。実行委総合プロデューサーの森安美さん(52)は「認知症になった人や要介護の人が社会とつながり、笑顔と希望を持つことの大切さを多くの人に感じてほしい」と話している。
折り鶴で担い手に
京阪古川橋駅前のビル1階の広々としたガラス張りのフロア。天井やツリー、パーティションに色とりどりの折り鶴が飾られている。認知症の人と家族、住民ら千人以上が介護施設や自宅のほか、会場に集まって鶴を折り、夢を書いたカードと一緒に糸でつないだものだ。趣旨に賛同する東北や九州の自治体、イギリスやフランスの福祉団体からもメッセージ入りの折り鶴が多数届いた。
万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。ケアマネジャーとして地域の介護福祉を支えてきた森さんは「認知症の人はできないことが増えて人とのつながりも減り、輝きから最も遠いところにいる。鶴を折って大阪・関西万博の担い手になろうという取り組み」と説明する。
ドバイ万博でも実績
日本では認知症になるとデイサービス、ショートステイ、施設入居など介護保険制度の中で生活するのが一般的だ。1人で買い物に出掛けるのは難しくなり、近所づきあいも制限されるなど、孤立を感じることが多い。
ゆめ伴は門真市内の介護事業者や認知症の人の家族らが語り合う場としてできたグループが母体。「認知症になったからといって希望を失ってほしくない」という家族の声がきっかけとなって誕生した。
市や社会福祉協議会、地域包括支援センター、NPO法人、市民団体なども参加。認知症の人たちが運営するカフェや農園、サロン、コンサートなど集い型の活動を続けてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅や施設でも可能な折り鶴やマスクづくりに取り組むようになった。
令和2年には地元のルミエールホールが主催する「かどま折り鶴12万羽プロジェクト」に参加。3年にはドバイ万博日本館に大阪万博をPRする「おもてなし折り鶴」2千羽を届け、人だかりができるほどの人気となった。
年末には、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿う優れた活動を表彰する「第5回ジャパンSDGsアワード」で「支えられる側の人たちが主人公として活躍している」として特別賞を受賞。104歳の女性メンバーが岸田文雄首相に礼状を送るなどして話題となった。
ゆめ伴プロジェクト実行委員長の介護福祉士、角脇知佳さん(52)は「介護の世界は人とのつながりが限定的になりがち。ドバイの奇跡的な成功で、直接会えなくても共通の目標に向かって鶴を折ることが認知症の人や高齢者のやる気と達成感につながっている」と話す。
この活動を万博につなげようと企画したのが「いのち輝く折り鶴100万羽プロジェクト」で、万博の「TEAM EXPO2025」の登録プログラムにもなった。同団体は「万博までの3年間で活動を府内外に広げ、会期中の大阪を折り鶴があふれるまちにしたい」と夢を描いている。
賛同企業も続々
一方、1970年の大阪万博を経験した高齢者にとって「万博はパワーワード。3年も待てない」(森さん)と前倒しで開催することになったのがツルナリエだ。府内の企業やNPO団体が次々と取り組みに賛同し、メンバーとして準備作業にかかわってきた。
岸和田市の建設会社「山形開発工業」は社をあげて協力。社長の山形照視(てるみ)さん(71)は「会社としてSDGsに取り組む中で、折り鶴プロジェクトの意義に共感した。みなさんの思いを目に見える形にしようと鉄筋技術を生かして展示用のオリジナルのツリーとパーティションを製作しました」。
折り紙とポスターで協力した東大阪市の商品企画開発会社「恒和プロダクト」ディレクターの阪野達彦さん(45)は「弊社の抗菌折り紙でつくった鶴がドバイで喜ばれ、夢をつなげる経験をさせてもらった。手先を使う折り紙は認知症予防にもなり、ぜひ大阪・関西万博でも飾れるようにしたい」と意気込む。
ツルナリエの会場は門真市の不動産会社「光亜興産」が土地区画整理事業に合わせて空けていたビルのワンフロアを提供。まちづくりグループ事業推進部の三好洋平さん(41)は「まちづくりをどう進めるか手探りしていたところ、ツルナリエの企画を聞き役立ちたいと考えた」という。
「思い切って扉を開けてみると、小さな力がつながって次々と扉が開いていく感じ。大阪・関西万博もワクワクして、できる自信しかない」
こう話す森さんは万博の展示だけでなく、認知症の人らが万博を目指して鶴を折ることで笑顔になるプロセスを楽しみにしている。
「病気になっても年をとっても人間らしく生きる。それが『いのち輝く』時間だと思う。この取り組みを全国規模に発展させることができれば、より多くの認知症の方々が輝けるのだと思います」(守田順一)