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NFTが拓くスポーツ価値の物々交換 上林功・追手門学院大准教授

追手門学院大の上林功准教授(本人提供)
追手門学院大の上林功准教授(本人提供)

今春、大手コンサルのPwCが公表したスポーツNFTの市場規模は約1100億円に上ります。NFT(Non-Fungible Token)とは「代替できない価値」のこと。例えば、スポーツ選手のトレーディングカードなどが挙げられます。レアなカードには希少価値がつくように、オンリーワンに近づくほど高額で取引されます。NFTが注目され始めた背景には、ブロックチェーンなどWEB3と呼ばれる情報技術があり、映像データや動画データなどに複製の制限をかけるインターネット上の「コピーガード」が可能となったことが挙げられます。

この分野、もともとはNFTアートと呼ばれる芸術市場での先行があり、現在では版画のエディションナンバー(限定部数)のように、シリアルナンバー付きのアート作品として販売・流通しています。ただ、芸術作品の価値はピンキリ。いくら限定モノと言っても、価値は曖昧なところがあります。その点スポーツはよくできていて、シーズンを通して名場面となる「価値のあるシーン」が作られることから、NFTと大変相性が良いのです。優勝を決めたホームラン、決勝点となるPK、誰もが憧れる最高のダンクシュート…。写真や映像で記録され、これまでは複数のメディアを使って共有されてきましたが、この元データを独占・所有できるのがスポーツNFTとなります。

一方、こうした価値のあるNFTは現在、投資目的で購入されることがほとんどです。オークションのような場で欲しがる人を集めなければ、個人所有の希少品に過ぎません。その点でもスポーツNFTは優秀です。一定のファン層がいることが分かっているので、価値を判断しやすいことや、現金ではなく、例えばチームイベントや球場でのサービスに利用できる限定ポイントとの交換を前提とすることで、チームに還元しやすい仕組みを構築できます。この限定ポイントはユーティリティー・トークン(UT)とも呼ばれ、既に多くの国内外のスポーツチームで導入されています。チケット購入やグッズだけでなく、プレミアイベントへはUTでの支払いでしか参加できないようにするなど、ファンの間で価値を発揮します。

近年、一部の金融機関ではUTと同様に直接NFTを支払いに使用できる「機能性NFT」が発行されるようになっています。簡単に言えば、NFTの物々交換にあたります。「ホームランシーンの映像」で「ホスピタリティサービスチケット」を手に入れるなど、多様な価値を提供できるスポーツならではの可能性が考えられるでしょう。

ファンの間でスポーツNFTの価値が決まり、チームに還元されるUTを使って売買や交換が行われる。ファン同士の活発なやり取りに結びつけることができるビジネススキームは、地域に範囲を広げることでスポーツによる地域振興・地方創生にもつながることが期待できそうです。

上林功(うえばやし・いさお)1978年11月生まれ、神戸市出身。追手門学院大社会学部准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所代表。設計事務所所属時に「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」などを担当。現在は神戸市や宇治市のスポーツ振興政策のほか複数の地域プロクラブチームのアドバイザーを務める。

新たな潮流が次々と生まれているスポーツビジネス界の話題を取り上げ、独自の視点で掘り下げます。

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