中学生英語力、さいたま市と福井県が突出のワケ

グローバルに活躍する人材の育成を掲げ文部科学省が英語教育を重視する姿勢を見せる中、子供たちの英語力の地域格差が顕在化している。文科省が公表した令和3年度の「英語教育実施状況調査」は、特にさいたま市と福井県が好成績となり、ほかの自治体との差が顕著な中学校では、自治体を挙げた取り組みや担当教師の実力などから、子供の英語力向上につながりそうなヒントが見えてくる。

授業で話す力

今回の調査で、中学卒業時に英検3級(中学卒業程度)相当以上の英語力を有しているとされた生徒の割合を都道府県・政令指定都市別にみると、さいたま市(86・3%)、福井県(85・8%)の高さが際立つ。ほかに70%以上だった自治体はなく、全国平均(47・0%)をはるかに上回った。こうした地域差について文科省の担当者は「さいたま市、福井県ともに自治体を挙げて英語教育を後押ししている」ことを要因とみる。

さいたま市では市内の公立小中学校で、9年間一貫した英語カリキュラム「グローバル・スタディ」を実施している。平成28年に導入したこのカリキュラムでは、小1~6の全学年はクラス担任と外国語指導助手(ALT)らの複数担任制を敷き、可能な限り英語の専科教員も配置。早くから〝生きた英語〟に接する機会を設けている。

結果として、さいたま市の全小学校の5、6年では、「授業の半分以上の時間で児童が英語を話す」ことに割かれていた。近年、小学校段階から「話す英語」に力を入れる自治体が多くなっているものの、すべての小5、6年で「授業の半分以上の時間で生徒が英語を話す」授業を実施していたのは、全国の都道府県、政令指定都市でさいたま市だけ。中学校でも同様の授業の実施率が99・4%とトップだった。

さいたま市教育委員会の担当者によると、授業では児童生徒にできる限り英語によるインプットをするように工夫しているという。その上で、「今後も子供が英語を使うことを嫌がらないような授業を進めていきたい」としている。

英検準1級取得

福井県は教師の英語力がトップだった。文科省が英語教師の実力を測る指標として調査項目に設けた「英検準1級」(大学中級程度)以上などの取得割合は、福井県の場合、中学で64・8%(全国平均40・8%)。福井県では、英語教師の英検などの取得率や中高での授業での英語使用率の目標を設定して改善を進めてきたほか、英語教師を対象にした研修も熱心に行い、授業の充実を図ってきた。

ただ教師の英語力に関して、今回の調査に伴う聞き取りでは、一部の自治体から「中学生の英語指導に英検準1級レベルの実力は不要」といった後ろ向きな意見もあったという。文科省の担当者は、「自治体別の教師の英語力は今後も公表して、実力向上に向けた競争を促したい」としている。

英語教育に詳しい東京外国語大の投野由紀夫教授は「さいたま市、福井県とも自治体や教育委員会が英語教育の重要性を認識し、地域の特性を踏まえた取り組みを進めている」と指摘。その上で、「小中学校の初歩段階の、レベルを考慮した英語を使った指導にこそ、個々の教員の英語力の高さが物を言うことがある」と教員の英語力底上げを課題に挙げる。また、令和2年度から小学校で英語が必修化されたことを踏まえて「今後、小中学生の英語力がどのように推移するのかを検証することで、より効果的な授業の進め方が見えてくる」と指摘している。(大泉晋之助)

英語教育実施状況調査 公立学校の英語教育の実態を把握するために文部科学省が平成25年度から実施。中学卒業段階で英検3級程度以上、高校卒業段階で英検準2級程度以上という英語力の設定は、学習指導要領をこなしていれば身に付けられるレベルだからだとしている。平成30年に政府が閣議決定した第3期教育振興基本計画では、令和4年度中に中高生ともに50%を目標と定めている。

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