ザ・インタビュー

理系人間よ、メディアに来たれ 同志社大助教 桝太一さん著『桝太一が聞く 科学の伝え方』

「科学に興味のない無関心層に科学的な情報をどう届けるかが課題。新聞とテレビはそれができるメディア」と話す桝太一さん(飯田英男撮影)
「科学に興味のない無関心層に科学的な情報をどう届けるかが課題。新聞とテレビはそれができるメディア」と話す桝太一さん(飯田英男撮影)

「サイエンスコミュニケーションについてもっと深く考えて実践したい」と日本テレビを3月に退社、大学の研究員となった。文部科学省によると、サイエンスコミュニケーションは、科学のおもしろさや科学技術をめぐる課題を人々に伝え、ともに考え、意識を高めることを目指す活動。本書は、日テレ時代から月刊誌『現代化学』で行っていた対談をまとめたもので、山中伸弥・京都大iPS細胞研究所名誉所長や大隅良典・東京工業大栄誉教授ら科学者など8人に、科学を伝えるとはどういうことかを聞いている。

「サイエンスコミュニケーションは、定義もいろいろあり、形も定まっていない。対談は、僕自身がゼロから勉強したいと思って始めた。この本でみなさんもいっしょに考えてほしい」

科学のおもしろさを伝えたいとの思いは、メディアの世界へ入った動機でもある。テレビの自然番組で生き物が好きになり、ファーブルのような研究者になろうと、大学院でアサリの殻の成長線について研究。しかし、研究者としての素質がないと気付き、生き物の魅力を伝える側になろうとメディアの採用試験に挑む。ディレクター志望だったが、最初に内定をもらったのが日テレのアナウンサー職で、やれるだけやってみようと入社を決めた。

「テレビ局に入ったら、修士と理系の人間がほとんどいなかった。とくに理系の少なさには、ニュースの多くが科学に関係することなのになぜだろうと不思議だった」

テレビは、政治や経済についてはかみくだいて分かりやすく伝えてくれる。しかし、科学に関する話はそうではない。自身もテレビで伝える側にいながら、うまく伝えられないもどかしさが常にあった。この思いは新型コロナウイルス禍でより強くなる。転職を決めたのは、コロナ禍でテレビ局自体に科学リテラシー(科学知識を理解する能力)が足りない瞬間があり、怖さを感じたこともあるという。

「科学に関することをうまく伝えられないのは、テレビ局の中に科学を専門的に学んだ経験のある人材が少なすぎるから。『伝える』ことのスペシャリストがそろっているのに、科学の知識と経験がないだけでうまく伝えられないなんてもったいない。そこをなんとかしたかった」

日本でメディアを目指すのは圧倒的に文系が多い。海外では、文系と理系の区別が日本ほど極端ではなく、理系の博士号を持っているジャーナリストも珍しくない。

「全人口での理系の割合を考えたら、(メディアに就職する)理系がいない方が不自然。理系出身の僕を見て、『理系でもアナウンサーになっていいんだ』と思ってもらえたらうれしい」

月刊誌の対談は今も続いている。科学情報を発信するメディア人やスポーツ選手にコミュニケーション法を聞くことも考えているという。続編の出版が楽しみだ。

ます・たいち 昭和56年、千葉県生まれ。同志社大ハリス理化学研究所専任研究所員(助教)。平成18年、東大大学院農学生命科学研究科修士課程を修了し、日本テレビに入社。23年から情報番組「ZIP!」の総合司会を10年にわたり務める。バラエティ番組「ザ!鉄腕!DASH‼」などで科学を伝える企画も担当。令和3年から報道番組「真相報道 バンキシャ!」で総合司会に就任。著書に『なぜ私たちは理系を選んだのか』(岩波書店)など。

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