鑑賞眼

宝塚歌劇団宙組「カルト・ワイン」 桜木みなと、栗田優香の相乗効果に酔う

「カルト・ワイン」でシエロ・アズール(=カミロ・ブランコ)役で主演する桜木みなと ©宝塚歌劇団
「カルト・ワイン」でシエロ・アズール(=カミロ・ブランコ)役で主演する桜木みなと ©宝塚歌劇団

本来は7月7日が大阪公演千秋楽のはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大で5日以降、中止されたのが惜しい良作だ。先行の東京公演は、桜木みなとの東京初主演作であり、劇団座付作家・栗田優香の東京デビュー作でもあった。中止は残念だったが、〝初お目見え〟だった東京の観客に、若い2人の高い潜在能力をアピールするには、十分だったことは強調したい。

映画「すっぱいブドウ」(2016年公開)のモデルで、ワイン偽造犯として米国で2012年に逮捕された、ルディ・クルニアワンに着想した新作(栗田作・演出)。中米ホンジュラスの極貧の青年シエロ(桜木)は生きるため、マラス(ギャング)の一員に。しかし親友フリオ(瑠風輝=るかぜ・ひかる)の父親にすら銃口を向けねばならない生活に嫌気がさし、フリオ一家とともに米国へ不法入国する。味覚の鋭さだけを武器に、名前を変え経歴を詐称し、被害総額1億ドルの偽造ワイン事件を起こす-。

とあらすじを追うだけでも、主人公が詐欺師という、全く宝塚らしくない作品である。見た目からして主演の桜木は、少年時代は極貧のチンピラの設定だから、前半は衣装もボロでクリクリの長髪、体に入れ墨まで入っている。一歩間違えれば、ファンから総スカンを食いそうな役なのだが、桜木の根っから陽性の持ち味が引き出され、骨太で魅力的なワルに仕上がっていたのは、栗田演出との相乗効果だろう。

シエロは犯罪者ではあるのだが、物語の進行につれ、厳しい境遇から抜け出すため、ワイン偽造に手を染めた、ある種のサクセス・ストーリーに見えてくる。命からがら米国に入国しても、不法滞在者が排斥されるのは現代と同じ。差別され、新たに「カミロ」という凄腕ワイン・コレクターに生まれ変わり、のし上がっていく。むしろワインを投機対象とする大金持ちに、しょうゆなどをブレンドした偽造ワインを売りつける姿は、痛快に思えるほどだ。

シエロは幕切れ、実際のルディ・クルニアワン事件と同様、逮捕される。だが、芝居の印象は爽やかだ。それは、シエロの不遇ゆえの悔しさや悲嘆、野心の大きさなど、複雑な感情も丁寧に描いた栗田脚本と、癖の強い役に血を通わせる演技で応えた桜木の成果だろう。また親友役の瑠風、その父親役の松風輝(まつかぜ・あきら)、ワイン偽造の元締役の留依蒔世(るい・まきせ)ら、芝居巧者が周りを固め、観客も気持ちよくシエロの詐欺と浮き沈みを見守ることができた。

ワインボトルを壁一面に並べた装置(國包洋子)が面白く、場面によってカラフルな照明で変化。また天井から下げた布に映像を映し、スクリーン的に使ったかと思えば、そのまま波に見立てる演出も面白い。

栗田は2021年、兵庫・バウホール公演デビューを果たしたばかり。その竹久夢二を描いたデビュー作「夢千鳥」の評価が高く、東京での作品上演が望まれていた。今回、期待を裏切らない力量を見せ、今後の作品にも注目したい。(飯塚友子)

東京公演は東京建物Brillia HALLで、6月17~26日。大阪公演は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、7月2~7日(5日から中止)。

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