英首相、重ねた「嘘」で信頼失墜 外交では存在感

ドイツ南部エルマウで開幕したG7サミットに出席した英国のジョンソン首相(手前)と岸田首相(左)=6月26日(ロイター)
ドイツ南部エルマウで開幕したG7サミットに出席した英国のジョンソン首相(手前)と岸田首相(左)=6月26日(ロイター)

【ロンドン=板東和正】英国のジョンソン首相が就任約3年で退陣に追い込まれることになった。英世論の支持を受けて欧州連合(EU)離脱を実現し、世界での影響力拡大を目指して掲げた「グローバル・ブリテン」戦略を実践。独特の風貌やユーモアある言動で聴衆をひき付け、存在感を発揮してきたが、首相官邸をめぐる不祥事や最近の物価高騰への抜本的な対策をとれず、政権の求心力は急速に低迷した。

ジョンソン氏は2019年7月、EU離脱への道筋をつけられず辞任したメイ前首相の後任として首相に就任した。離脱派として知られていたジョンソン氏は、極めて困難と予想された離脱条件に関する協定案をめぐりEUとの交渉に成功。国内では、離脱路線に反発する野党の動きを封じ込めるため、議会を休会する前代未聞の措置に踏み切るなど「予想のつかない戦略」(英メディア)を繰り出し、2020年末でEUの完全離脱を実現させた。

ジョンソン氏を知る与党・保守党の元議員は「交渉相手をリラックスさせる『人たらし』ともいえる振る舞いがEUを軟化させる一方、強引な手法は国内の統制をとるために役立った」と分析する。EU離脱に向けた交渉では、緊張関係にあったフランスのマクロン大統領と19年8月に会談した際、ジョンソン氏がいたずらっ子のようにテーブルに足を乗せて冗談を交わす姿が話題になった。

ジョンソン氏は離脱後、「グローバル・ブリテン」構想を表明。EUの規制から英国を解き放ち、軍事や経済で世界への影響力を拡大させることに成功した。

ジョンソン政権は昨年3月、今後10年間の外交や安全保障などの政策を定めた「統合レビュー」を公表し、インド太平洋地域への関与強化を明記した。同年には、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を核とする空母打撃群をインド太平洋に向けて派遣。日本にも寄港し、日英の防衛協力の進展につながった。昨年6月には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入にむけた交渉も開始した。

ロシア軍の侵攻を受けたウクライナへの兵器支援やロシア内部の情報収集でも存在感を発揮した。ジョンソン氏退任後の国際社会の結束には、懸念も残る。

一方、国内の経済政策について評価は芳しくなかった。EU離脱後、移民受け入れを制限したことで労働力が不足し経済が低迷。ウクライナ危機に伴うガソリンや食料の価格高騰に抜本的な対策をとれなかった。

そうした中、ジョンソン氏は国民や議員に対して度重なる噓をつき、自身の信頼を地に落とした。英国の首相官邸で新型コロナウイルス対策の行動規制下にあった時期にパーティーが開かれていた不祥事では、自身が参加したにも関わらず議会で「コロナ規制は守ってきた」などと発言した。

保守党のピンチャー院内副幹事長が6月末、男性への痴漢行為を報じられたことを受け辞任した不祥事をめぐっては、ピンチャー氏が過去に同様の問題を起こしたことを把握しながら知らないふりをし、官邸も説明を二転三転させた。

ジョンソン氏の不誠実な対応は保守党全体の信頼低下につながり、5月の統一地方選では保守党の議席が大幅に減少。6月下旬の議会下院の補欠選挙でも議席を失った。ジョンソン氏は保守党の価値を下げる「最大の負債」(英マンチェスター大のフォード教授)と指摘された。

ジョンソン英首相、辞意表明 秋まで職務継続


会員限定記事会員サービス詳細