欧米30カ国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議がスペイン・マドリードで開催され、岸田文雄首相が日本の首相として初めて出席した。
ロシアによるウクライナ侵略は、冷戦後の国際秩序を大きく揺るがしている。こうした事態を受け、NATOは中期的な行動指針「戦略概念」を12年ぶりに改定し、ロシアを「最も重大かつ直接の脅威」と位置付けた。
また、海洋進出などの動きを強める中国についても「体制上の挑戦を突きつけている」と初めて言及し、強い警戒感を示した。日本に加えて韓国、豪州、ニュージーランドの首脳が初めて首脳会議に招待されたのも、新たな戦略概念で打ち出した「インド太平洋のパートナー国と協力を強化する」という方針を裏打ちする具体的行動である。
産経は「今回の首脳会議の特徴は、NATOが、世界の安全保障を損なう懸念対象としてロシアと中国を名指しし、日本など域外のパートナー国とも協力して、厳しさを増す新しい時代に備える姿勢を明確にしたことだ」と論考し、NATOの姿勢の変化を評価した。
読売も「ロシアの暴挙が、米欧と日本などによる同盟・協力の新たな体制の構築をもたらした。第2次世界大戦後の国際政治と安全保障の枠組みは転換期を迎えた」と指摘したうえで、「日米などの対中認識が、地理的に遠い欧州でも明確に共有された意義は大きい」と強調した。
さらに日経も「民主主義と自由の価値を再確認し、それを破ろうとする権威主義的な勢力には結束して対抗する決意を示した。その意義は中ロを隣国とする日本にとっても大きい」と論じた。
これに対し、朝日は「日本が日米同盟に加え、欧州諸国とも安全保障面の連携を深めることには意義がある」としながらも、「中国に対抗する姿勢ばかりが前面に出れば、かえって緊張を高める結果になりかねない。対話の努力を同時に進めねばならない」とクギを刺した。
毎日も「ロシアを抑止し、中国を警戒するのは当然だ。だが、敵対姿勢を打ち出すだけでは『冷戦の復活』のそしりを免れない。団結をてこに外交を動かすことが重要だ」と訴えた。
今回の首脳会議では、これまで中立だった北欧のスウェーデンとフィンランドのNATO加盟手続きの開始も決めた。ロシアのウクライナ侵略で安全保障上の危機感が高まり、自国だけでは安全を守れないと判断したからだ。
両国のNATO加盟について、産経は「NATOの自国への接近を嫌っていたプーチン露大統領にとっては、自ら招いた戦略的敗北といえる」と断じた。読売も「NATOにとっても、2国の加盟は、近隣のエストニアなどバルト3国の抑止力強化になる」と指摘した。
岸田首相は、今回の首脳会議で「ウクライナ侵略はポスト冷戦期の終わりを明確に告げた」「ウクライナは明日の東アジアかもしれないという強い危機感を抱いている」などと演説した。
これについて、産経は「首相が披露した時代・情勢認識は妥当だ」としたうえで、「今後の課題は、中国や北朝鮮、ロシアの隣に位置する日本が、同盟国米国を含むNATO諸国から信頼を集めながら安全保障協力をいかに深めるかである」と求めた。
読売も「NATOと日韓豪ニュージーランドの協力を推進するパイプ役を日本は果たさねばならない」と注文を付けた。
自由と民主主義という普遍的な価値観を共有する国々が地域を超えて連携することは、ロシアや中国を牽制(けんせい)することにつながる。今回のNATO首脳会議はその大きな転機になったといえそうだ。(井伊重之)
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■NATO首脳会議をめぐる主な社説
【産経】
・平和へ地球規模の協力を/首相は防衛強化の約束果たせ(1日付)
【朝日】
・「安定」に資する連携を(1日付)
【毎日】
・露の暴挙が団結を促した(2日付)
【読売】
・露が招いた安保体制の転換(1日付)
【日経】
・対中ロで決意示したNATOの新戦略(2日付)