「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

佐藤輝、〝村神〟を猛追せよ、残された道はヤクルト戦13連勝

ヤクルト猛追のキーパーソンとなる阪神・佐藤輝明
ヤクルト猛追のキーパーソンとなる阪神・佐藤輝明

悔しかったらヤクルト戦13連勝してみろ! チームを牽引(けんいん)するのは佐藤輝明内野手(23)しかいません。独走するヤクルトの村上宗隆内野手(23)を強烈に意識し、全ての打撃部門で迫ることこそリベンジの絶対条件です。阪神は80試合消化時点で36勝42敗2分け。首位ヤクルトには優勝へのマジックナンバー「51」が点灯し、絶望的な17ゲーム差です。自力優勝の可能性も消滅していますが、今季を「17年ぶりの優勝を完結させるプロジェクト」と球団首脳が明言した以上、爪痕も残さず敗退することなど許されません。今週末(8~10日・神宮)の3連戦を含むヤクルト戦残り13試合を全部勝ち、プロジェクトやらをやり遂げてもらいたい。佐藤輝が〝村神〟に迫るならばチームに勢いはつくはずです。

ヤクルトにマジック点灯

阪神は6月を14勝8敗1分けの好成績で、チーム状態は悪くはありません。しかし、阪神以上に首位・ヤクルトの強さはちょっと信じられないくらいのレベルです。5月14、15日の広島戦から14カード連続の勝ち越し。フランチャイズ制となった1952年(昭和27年)以降、14カード連続勝ち越しは54年の南海(現ソフトバンク)と並ぶ最多記録です。

ヤクルトには優勝へのマジックナンバー「51」が点灯しており、現日程での最短優勝決定日は8月12日となります。阪神はヤクルトに17ゲーム差の4位。もうこうなってくると、残り63試合で「逆転優勝だぁ!」なんて能天気には言えなくなります。普通で考えるならば、3位の広島とは2ゲーム差、2位の巨人とも3・5ゲーム差ですから、クライマックスシリーズ圏内に、そしてファーストステージを主催できる2位に食い込むことこそが、現実的な目標になるでしょう。

しかし、ちょっとむなしい目標設定ですね。現在の首位と2位の差は13・5ゲーム差。もう世間では「こんな超独走状態のヤクルトと2位以下のクライマックスシリーズは開催する必要はないのではないか?」という声さえも出ています。確かに143試合が終わった時点でこのままのゲーム差ならばクライマックスシリーズの不要論まで飛び交うのではないでしょうか。

ならば阪神の目標設定はどこに置けばいいのでしょうか。前回のコラムでも書きましたが、6月15日の阪急阪神ホールディングスの定時株主総会で株主からの批判、檄に応えた谷本修取締役オーナー代行(57)は「こちらは矢野監督をはじめですね、チーム全員が目指しております17年ぶりの優勝というのは(中略)、事業にたとえると、まったく新しい事業を一からやっておるというようなところでございまして(中略)。従って、そちらのプロジェクトを2022年で完結したい。私どもチームとしては、17年ぶりのプロジェクト、ペナント奪回を誰一人として諦めてございません」と熱く語りました。

つまり、発言があった時点でも首位・ヤクルトとは12・5ゲーム差あったにもかかわらず、あくまでもチーム、球団としての目標は変わらず「17年ぶりの優勝」だったわけです。そして、きっと7月に入った現在でも「17年ぶりのプロジェクト、ペナント奪回」が目標値のままでしょう。株主に対する発言はそれほど重いものであるはずです。

では、もう不可能とも思える逆転優勝に向けて、チームには何が必要か-。当たり前ですが、残り63試合は勝ちまくること。そして首位ヤクルトを自力で引きずり落とすことです。対ヤクルトとの対戦成績は4勝8敗です。思えば開幕9連敗は開幕カードのヤクルト3連戦(京セラ)に3連敗したのが尾を引きました。それ以外でもヤクルト3連戦は3カードありましたが、勝ち越したのは4月22~24日の3連戦(神宮)で2勝1敗とした一度だけ。このマイナスとプラスの関係性を逆転しなければなりません。残りのヤクルト戦13試合は一つも落とさないで全部勝つ! ぐらいの意気込みで臨まなければ逆転Vなど鼻で笑われるだけです。今週末の8日からヤクルト3連戦(神宮)が行われますが、まず3連勝が絶対条件です。

敵の4番は無双状態

そして、チームの中で特に対ヤクルトの意識を強く持ってほしい選手こそが4番・佐藤輝明ですね。対ヤクルトいうよりも対村上宗隆…と言ってもいいでしょう。敵の4番はまさに無双状態です。77試合消化時点で打率3割7厘、29本塁打の78打点です。得点圏打率も3割2分。まさに燕打線の中心としてチームを牽引しています。3冠王を期待する声も出ていますね。対する佐藤輝は80試合出場で打率2割7分2厘、14本塁打の48打点です。得点圏打率は2割3分2厘です。

プロ2年目の佐藤輝は昨季のような長期スランプもなく、ボール球のムチャ振りもなく、大きく成長したと思います。なので4番に座っているのですが、現状で満足してほしくない。本人はもっともっと高みを目指していると思いますが、より具体的な目標を「村上超え」に置いてほしいですね。打率も、得点圏打率も本塁打も打点も、全ての部門で村上を超えてほしい。村上とは同じ三塁手でもあり、4番打者であり、年の差も1歳しか違いません。

「佐藤輝はタイガースの中では抜きんでた存在になりつつあり、周囲のファンも『よくやっている』とたたえている。でも、現状で満足していたら成長度も鈍ると思う。同じ左打者、長距離砲として村上に負けない数字を残してほしい。村上を強く意識することで、自分を厳しく見つめ直し、さらに上を目指してほしい」とは阪神OBの言葉です。

今季のヤクルトのちょっと信じられない強さは、リリーフ陣の安定や、山田や青木、中村らの充実もありますが、やはり一番の理由は村上の打力でしょう。ファンからは「村神」とも呼ばれているのですから。ちょっと古い話かもしれませんが、1985年の阪神における「神様・仏様・バース様」と同じレベルでしょうね。阪神がヤクルト戦13連勝するのであれば、佐藤輝が村上をしのぐほどの大活躍を見せるしかないでしょう。また、佐藤輝が村上を強く意識し、自身のスキルアップを図るならば、打者としてのレベルも向上するはずです。村上と打撃3部門で争うような力を発揮すれば、チームも自然と急上昇しませんかね。

「17年ぶりのプロジェクト、ペナント奪回」を球団首脳が口にしてから、まだ15試合しか消化していません。絶望的な数字ばかりが目に入りますが、株主を前に言い切った以上は最後の最後まで諦めず、食い下がってもらいたい。そのためにはヤクルト戦13連勝しかありません。そして、チームの先頭に立って戦うのは「村神超え」を目指す佐藤輝となるはずです。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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