シンガポールで「チキン・クライシス」(鶏肉危機)が話題となっている。マレーシアが自国の需要を優先させるため、6月1日から鶏肉の輸出を制限したことで、シンガポール市場の混乱につながっている。
影響が直撃しているのが、シンガポール名物のチキンライス。蒸し鶏をご飯に載せるシンプルな料理であるだけに肉の新鮮さが重要だ。だが、マレーシアから生きたまま輸入され、国内で処理されていた鶏肉が入手できなくなった。チルドや冷凍のもので代替えせざるをえず、各店舗で「味が変わった」との評価が相次いでいるという。行きつけのチキンライス屋の店主は「そんなに変わったとは思わないが、常連にそう言われる」と苦笑した。
深刻な「鶏肉危機」に対してシンガポール政府の焦りは強い。輸入元を増やし、供給を安定させようと躍起だ。それでもフー持続可能性・環境相は「さらなる混乱と価格変動に心理的に備えなければならない」と危機感を吐露する。
ロシアのウクライナ侵攻後、「安全保障」が改めてキーワードとなっているが、それは国防に限らない。安定した価格で質の高い食べ物を確保する「食料安全保障」も重要な課題だ。おいしいのだが、なんとなく食感が悪くなった気がするチキンライスを食べながら強く実感した。(森浩)