主張

拉致と参院選 解決への意思を熱く競え

参院選に向け、各党はホームページなどに公約を掲げている。どの党の政策を見渡しても、探すのに苦労するのは、北朝鮮による拉致問題解決への言及である。それほど扱いは小さく淡泊だ。

岸田文雄首相はこれまで「拉致問題は政権の最重要課題」と繰り返し、外遊先では友好国に協力を求めてきた。だが自民の公約には「北朝鮮に対し、全ての拉致被害者の即時一括帰国を求め、核・ミサイルの完全な放棄を迫ります」とあるのみだ。

立憲民主は「一刻も早く、拉致被害者を取り戻す!」、国民民主は「拉致問題の解決を図ります」、日本維新も「一日も早い全ての拉致被害者・特定失踪者の奪還に向けて真相究明と外交努力を尽くします」と記すが、具体性に欠ける。公明と共産は拉致の解決と「過去の清算」を並列に記した。NHK党の公約に「北朝鮮当局と密接な関係を有する朝鮮総連などに対して断固たる措置をとる」とあるのが、数少ない具体策といえた。

党首討論や街頭演説でも、拉致への言及を聞くことはほぼない。こうした参院選のありようをみれば、北朝鮮は「日本は拉致問題に興味なし」と受け取るだろう。

北朝鮮外務省は6月27日、拉致問題は「全て解決し、これ以上存在しない」と声明を出し「責任は全面的に、日常的に噓をつき国際社会を欺いている日米にある」と強調した。松野博一官房長官は「全く受け入れられない」と述べたが、どうにも発信力が弱い。

北朝鮮の声明は、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使が拉致問題を理由に北朝鮮を「人権蹂躙(じゅうりん)国家」と呼んだことに反発したものだ。北朝鮮は28日にも米国を「侵略と略奪で肥大してきた反人倫犯罪国家」と非難した。

強い反発は、痛いところを突かれたゆえのものだろう。それを発したのが日本の政治家ではなかったことを残念に思う。選挙は意思表示の最大のチャンスなのに。

拉致被害者、横田めぐみさんの母、早紀江さんは本紙連載「めぐみへの手紙」でウクライナのゼレンスキー大統領が先頭に立つ姿に触れ、「決然とした態度で、北朝鮮の胸にするどく刺さるような言動が、日本の政治家にも必要ではないでしょうか」と記した。各候補者には、この母の思いに応える選挙戦を展開してほしい。

会員限定記事会員サービス詳細