「子供は静かに溺れる」 元教員が伝えるライフジャケットの必要性

ライフジャケットを着けると1年生でも多くの児童が背浮きができるようになった=高松市の庵治小学校
ライフジャケットを着けると1年生でも多くの児童が背浮きができるようになった=高松市の庵治小学校

水の事故を防ぐため、ライフジャケット着用を促す活動が広がっている。香川県教委は今年度、推進委員会を設置し、レンタルステーションの運営・支援・啓発、親子体験教室のほか、小学校に専門家を派遣し体験教室の開催などを行っている。香川県でこうした先進的な取り組みが広がっているのは、「ライジャケサンタ」と称して自主的に啓発活動を行ってきた元教員、森重裕二さん(46)の力が大きいという。

水難事故を教訓に

森重さんはもともと滋賀県内の小学校教員。学生時代に、障害者と一緒にカヌーに乗るイベントを機に競技カヌーに打ち込んだ際は「ライフジャケット着用は常識」で、その重要性を肌で感じていたという。

15年前、勤務先の学校で川の行事を行う際にライフジャケットを着用するよう尽力したというが、やっと学校にライフジャケットの装備が整ったころ、ショッキングな事故があった。近隣の学校の児童2人が高知・四万十川で野外体験学習中に川遊びをしていておぼれて水死したのだ。

「もっと早く動けていたら」と落ち込んだといい「ライフジャケットの着用を広めていくことが自分の使命」と決意したという。結婚を機に移り住んだ香川県でも、普及活動を行っていくことにした。

石材加工の仕事の傍ら、企業に装備の寄付を呼び掛けたり各地で講演などを続けている。自らを「ライジャケサンタ」と名乗り、当初はライフジャケットの無料配布もしたという。いまはレンタル事業などを行い普及に努める。

力説するのが「人の体はほぼ浮かない。息をたくさん吸っていても水の上に出るのは体の数%、立った姿勢だと頭頂部がわずかに見える程度で、手を上げてしまうと体は完全に水の下になることを知ってほしい」ということだ。

長野県の佐久医師会が行う「教えて!ドクタープロジェクト」のサイトを例に「子供は静かに溺れる。溺れた状況を理解できず手足を動かせず、気道が本能的に閉じるので窒息するという本能的溺水反応が起きる可能性がある」と、警告する。

「水辺の子供たちにライフジャケットを着けさせましょう」というメッセージを発信し普及啓発活動を続ける「ライジャケサンタ」こと森重裕二さん(本人提供)
「水辺の子供たちにライフジャケットを着けさせましょう」というメッセージを発信し普及啓発活動を続ける「ライジャケサンタ」こと森重裕二さん(本人提供)

小学生が着用体験

森重さんの活動もあって香川県内では徐々に子供のライフジャケット着用が広がっている。

6月下旬に高松市立庵治小学校のプールで体験教室が行われていた。児童や保護者が参加。高松海上保安部の職員からライフジャケットの機能や着け方、背浮きの仕方などを実際に教わっていた。

児童は着衣の状態でプールに入った後、着け方を教わり再びプールへ。ほとんどの児童が背浮きをできるようになった。海保の職員は「着用すると浮きやすくなる。子供用は両足の間にベルトを通すなど、正しく着けないと水に入った衝撃でずれたり脱げたりすることがある」と話した。

6年生の吉井智香さんは「服を着て水に入ると重くて動きづらかった。ライフジャケットの正しい着け方が分かって良かった」。PTA役員のひとりは「実際に着けた感覚を知ったことが重要で、貴重な機会でありがたい」と話していた。

香川県教委では企業からの寄贈を受け、ライフジャケットレンタルステーションを保健体育課に設置。学校などからの申請を受けて子供用、大人用を貸し出している。

担当者は「昨年度に50着で始めたが申し込みから数日で予約枠が埋まってしまった。今年度から200着以上に増えたが、ニーズに応えるにはまだ数が必要だ」と説明する。

高松海上保安部の職員からライフジャケットの正しい着け方を教わる子供たち=高松市の庵治小学校
高松海上保安部の職員からライフジャケットの正しい着け方を教わる子供たち=高松市の庵治小学校

装備を準備する責任

香川県内では県教委保健体育課のほか、県環境管理課、坂出市、さぬき市の海水浴場で活動するライフセービング協会などがレンタルステーションを開設している。

全国的にみると、事故があった滋賀県甲賀市や愛媛県西条市が貸し出すほか、公益財団法人、マリンスポーツ財団(東京)では各地の海水浴場などと連携して現在18カ所にステーションを設置。財団の担当者は「米国を参考に日本でも普及させたいと平成27年から始めた。使う機会を提供して必要性を認識してもらえたら」と話す。

NPO法人「川に学ぶ体験活動協議会」(東京)でも販売・レンタルを行うなど、動きは少しずつ広がっている。

「子供たちに伝わりやすいように」と、森重さんが文を、絵本作家の市居みかさんが絵を手がけた絵本『かっぱのふうちゃん』(子どもの未来社)が今年5月に出版された。

森重さんは「水難事故から命を救うためにできることを、県内でさらに広げ、全国へと拡大していきたい。水辺の事故のニュースを聞かない日が来ることを願い、活動し続けていく」と話している。(和田基宏)

香川県環境保健研究センターに設置されている「SATOUMIライフジャケットレンタルステーション」=高松市(森重裕二さん提供)
香川県環境保健研究センターに設置されている「SATOUMIライフジャケットレンタルステーション」=高松市(森重裕二さん提供)

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