山梨県警は、SNS(交流サイト)やマッチングアプリを通じて、外国為替証拠金取引(FX)への投資を持ち掛けられ、約1億5400万円と、約2300万円をだまし取られる2件の高額詐欺被害が県内で発生したと公表した。相手に恋愛感情を抱かせる「国際ロマンス詐欺」とFX投資詐欺を融合させた「国際ロマンスFX投資詐欺」ともいえる新たな手口。人口80万人の山梨県で2件確認できたということは、同様の案件が全国的に数百件起きていてもおかしくない計算で、警戒が必要だ。
「一緒にいきたい」
「プロフィル写真がとてもすてきですね」
捜査関係者によると、昨年10月3日、富士河口湖町の50代の男性のSNSに中国籍という女からメッセージが届いた。
このメッセージを機に、男性は女と親しく、無料通信アプリを使ってやり取りを続けた。女はFX投資で毎週数万ドルの外貨を稼いでいるとし、高級レストランでの食事や旅行など自らのリッチな生活の様子や、「これからの人生を一緒にいきたい」といったことを伝えると同時に、男性にFX投資話を持ち掛けた。
女はFXに詳しい親族で中国有名大学の教授という男Aを紹介。男性は昨年10月8日、Aの指示に従い指定された口座に50万円を振り込んだ。するとFX取引アプリで入金を確認でき、利益が出て50万円を引き出せた。
その後、Aが「利益が倍になる」「今がチャンス」などとあおり、男性は今年の2月22日まで計19回、合計1億5400万円を指定口座に送金した。だが、今年に入ってからは引き出そうにも、さまざまな理由をつけて引き出すことができず、そのうちに、Aや女と連絡が取れなくなった。
恋人同士のやりとり
もう一件の詐欺は、上野原市の40代女性が被害に遭った。捜査関係者によると、女性は今年5月8日、マッチングアプリで海外育ちの日本人だという男Bと知り合い、Bから「損したことはない」とFX投資を持ち掛けられた。女性は15~23日の間、11回、計約2300万円を指定された口座に送金した。
最初の3回は5万円の投資が5万9千円に、15万円が18万円に、36万円が67万円に増えたとして、元金と利益を受け取った。しかしその後、金額を増やしていった投資分は引き出すことができなくなった。弁護士と相談し、6月22日に被害届を出した。
捜査関係者は、Bからは結婚をほのめかす内容こそなかったが「一般的に見れば恋人同士のやり取りという感じだった」と話す。
翻訳アプリ、異なる口座
県警は2件が同一グループの犯行かは不明とする。しかし、いくつか共通する手口があった。
一つ目はグループと被害者のやり取りがSNSや無料通信アプリだけで、直接の電話でのやり取りなどは一切なかったこと。外国人や海外育ちの日本人であるとして、翻訳アプリを使っており、被害者はおかしな日本語でも違和感を覚えなかったという。
二つ目は、取引開始直後は利益が出て実際に返金したり、取引システムには多額のもうけが表示された点だ。富士河口湖町の男性のケースでは、1億5千万円超の投資に対し、アプリ上では資産が10億円以上に膨らんでいた。ただ、そのアプリが正規のものか、そうでないのかはわかっていない。
三つ目は、被害者が振り込む際の指定口座だ。捜査関係者によると、振込先の口座の名義は毎回異なっていた。いずれも個人の名義だが、国内メガバンクやネットバンクの口座だっただけに、指示されるままに振り込んでしまったという。
捜査関係者は同様の被害があっても、金額が少なかったり、恥ずかしさもあって被害届を出さないケースもあり、今回明らかになったのは氷山の一角の可能性が大きいとみている。(平尾孝)