新聞に喝!

露の「被害者歴史観」を宣伝する朝日 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦

ロシア・モスクワの「赤の広場」で演説するプーチン大統領=5月9日(タス=共同)
ロシア・モスクワの「赤の広場」で演説するプーチン大統領=5月9日(タス=共同)

朝日新聞6月17日の夕刊1面に、カラー写真を4つも載せた、極めて目立つ記事が出現した。モスクワ郊外のボロジノで激突したロシア帝国軍とナポレオンのロシア遠征軍による「ボロジノの戦い」(1812年9月)を再現したイベントの報道である。

目立つのは黒地に白抜きの縦見出しで、「根深い被害者意識『いつも攻撃される』」と、「『ナポレオン、ヒトラー…そして今も』」というもので、ナポレオンとナチス・ドイツに攻められたように、被害者の立場を強調することによって、ウクライナ侵略を正当化しようとしているわけである。

しかしこのロシア人の被害者歴史観は、基本的に事実に反している。それを極端に示しているのが、ボロジノ国立軍事歴史博物館のイーゴリ・コルネエフ館長の発言で、「歴史を見れば、ロシアが攻撃を受けずに100年以上を過ごしたことはない。ロシアから攻撃したことは一度もなく、ただ防衛してきただけだ」と言うのである。

この主張に対する朝日の批判は、「実際には、ロシア帝国は領土の拡張を目指して欧州列強と戦い、東方や南方にも勢力を拡大した」と言い、次いでソ連時代の東欧への軍事行動やアフガニスタン出兵に言及する。しかし反論はたったこれだけである。

そのすぐ後に「ただ、多くの国民は被害者意識の方を共有している」と言って、ロシア下院国防委員長や、「ロシア兵士の母の会」副会長の意見を、長々と紹介している。しかし、こうした被害者歴史観の不当性、ロシアによる侵略の犯罪性を指摘できる証拠ならいくらでもある。

そもそも18世紀の後半に、ドイツ人(プロイセンとオーストリア)とロシアで、3回にわたってポーランドを侵略・分割して、ポーランドは完全な亡国となった。フィンランドもバルト三国も侵略によって併合した。

また第二次世界大戦の開始時、ソ連はナチスと秘密協定を結んで、ポーランドを東西から侵略し、東部の領土を大幅に奪った。フィンランドから、国土の10分の1をもぎ取り、バルト三国を再侵略して併合した。

そのほかにもロシア人は、膨大な侵略を行ってきた。これこそが歴史の真実であり、現在のロシア人の歴史観は、強烈な洗脳教育の結果に過ぎない。結局、朝日新聞はロシア人の真っ赤なウソを、大々的に宣伝してしまっている。つまり明らかに侵略者の側にたっている。

【プロフィル】酒井信彦(さかい・のぶひこ)

昭和18年、川崎市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂(へんさん)所で、『大日本史料』の編纂に従事。

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