熱海土石流1年 見過ごされた危険性、責任の押し付け合い

3日で発生1年となる静岡県熱海市の大規模土石流は、起点の土地に約15年前からあった大量の盛り土が崩壊して起きた。なぜ危険性が見過ごされてきたのか。この1年の検証で明らかになったのは、土地の現旧所有者、県、市による責任の押し付け合いの構図だ。対処すべき当事者間のはざまで発生した未曽有の災害は「人災」とも指摘され、犠牲者遺族は刑事告訴や民事訴訟に踏み切ったが、決着には長期化も予想される。

「潔白」を主張

「土地は貸しただけ。盛り土をしたのは別の施工業者だ」。土地の旧所有者である神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)元代表は6月、産経新聞の取材にそう話し、「潔白」を主張した。

熱海市が開示した行政文書などによると、同社が土石流の起点となった土地を購入したのは平成18年9月。約半年後、3・6万立方メートル、高さ15メートルの盛り土の造成を市に届け出た。

だが、盛り土に産業廃棄物を埋めるなどの法令違反が続いたため、市は土砂搬入の中止を要請。造成工事途中の23年2月、土地は現所有者へ売却された。売却後の同年5月、市は現旧所有者に排水設備の設置など安全対策工事を求めたが、双方が費用負担を拒否。効果的な対策が取られないまま、今回の土石流が発生した。

県の推定では盛り土の総量は7万立方メートル超、高さ約50メートルに及び、届け出量を大幅に超えていたとみられる一方、元代表は「(売却後)10年間安定していた」と主張し、危険性の認識はなかったとしている。

「法的責任はない」

土地引き継ぎ時の認識にも、大きな隔たりがある。

元代表は、虚偽発言に罰則もある今年5月の市議会特別調査委員会(百条委)の証人喚問で、現所有者の関係者に「(盛り土の存在や安全対策工事の必要性など)状況を説明した」と発言した。だが、現所有者は「盛り土がある認識はなかった」と主張し、市からの工事要請も「記憶にない」と証言。現所有者名で平成25年1月、「安全対策工事を実施する」との文書が県に提出されていたが、遺族らによる損害賠償請求訴訟でも、代理人を通じ「作成しておらず、目も通していない。法的責任はない」と反論した。

深刻な連携不足

県と市の連携不足も深刻だった。

当時の県条例の施行規則は、造成面積が1ヘクタール未満は市が窓口と規定。旧所有者側は0・94ヘクタールとして計画を提出しており、市が対応に当たったものの、産業廃棄物を埋めるなどの違反行為を止められなかった。

その後、造成面積が計画より拡大しているとみた市は、旧所有者側へ測量を指導。森林法で「知事の許可が必要」と定められている量を超える1・2ヘクタールが造成されていたとして、県にかけあった。これに対し、県は「客観的な証拠がない」と受け付けず、市主体の対応継続を求めた。

県が設置した第三者委員会は今年5月の最終報告で、両者の足並みがそろわないまま不適切な開発行為を許したと批判。安全対策工事が土石流発生まで放置された背景に「組織としての関心が薄れ、組織内の後任者にも引き継がれなくなった」ことなどを挙げ、両者の対応を「失敗」と結論づけた。

業務上過失致死罪などの告訴を受理した静岡県警は昨秋以降、所有者側の関係先を強制捜査し、指示系統の特定などを進めている。「遺族に癒えぬ悲しみをもたらした」。被害者の会会長の瀬下雄史さん(54)は今後、民事訴訟の場で現旧所有者らの責任をただす考えだ。

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