衝撃事件の核心

少女淫行「トー横のハウル」が語った児童養護施設の夢

警視庁荏原署から送検されるハウルこと、小川雅朝容疑者=6月24日、東京都品川区(岩崎叶汰撮影)
警視庁荏原署から送検されるハウルこと、小川雅朝容疑者=6月24日、東京都品川区(岩崎叶汰撮影)

居場所のない少年少女たちがたむろする東京・歌舞伎町の通称「トー横」で、「ハウル」と名乗っていた男が16歳の少女にみだらな行為をしたとして、警視庁に逮捕された。トー横を取材する中で出会った男は、少年少女たちに食事を振る舞い、良き相談相手のようだった。支援者としての「夢」まで語っていたが、少女を毒牙にかけていた。表と裏の顔を使い分けていたハウルの正体とは…。

本名・年齢明かさず

「俺、児童養護施設作るのが夢なんですよ」

真冬の寒さが身にしみる昨年末の深夜、トー横を取材していた記者に紫色の長髪の男はそう語った。炊き出しや清掃活動などをするボランティア団体「歌舞伎町卍(まんじ)会」の総会長で、「ハウル・カラシニコフ」と名乗った。本名や年齢は明かさなかった。

トー横は、歌舞伎町にある複合施設「新宿東宝(とうほう)ビル」の「横」から名付けられた。数年前から交流サイト(SNS)などを通じ、少年少女たちが集まるようになり、コミュニティーが形成された。

ホテルからの飛び降り自殺、ホームレス男性に対する暴行事件、児童買春、未成年者の飲酒・喫煙…。記者は事件や問題が頻発していたトー横に何度も足を運び、そこに集う少年少女や大人から話を聞いてきた。その中にハウルもいた。

ハウルは令和3年4月ごろからトー横で炊き出しなどの活動を始め、晴れた日や週末には仲間たちとトー横で朝を迎える、と話した。初めて出会った日は、手作りのパスタやコンソメスープを少年少女に振る舞っており、パスタを入れた容器はすでに空だった。

取材中、2人組の少女がハウルに話しかけた。高校生ぐらいの年齢とみられる少女は「頑張ってるんだけどさ、クラスに嫌なやつがいて、あんまり(学校に)行けていない」と打ち明けた。ハウルは「無理すんなよ。嫌なことがあったらすぐに言いな」と助言した。

「変なやつに絡まれないように、みんなで見守ってあげようって感じです」。相談に乗るのも活動の一環だと説明していた。

再三の注意に従わず

ハウルの姿を追っていると、別の一面ものぞかせた。

仲間たちが酒を飲み、喫煙しているところを新宿区の警備員が見つけ、「ここは道路なので飲酒はやめてください」と注意した。ハウル自身は飲酒や喫煙をしていなかったが、「僕たちはボランティアです。区の許可もらってます」などと応じ、従う様子はない。

警備員に再度注意されても仲間らが飲酒、喫煙を止めることはなく、警備員が去ると、ハウルは「しつこいなぁ」とぼやいた。

「トー横」周辺に集まる若者たち。小川雅朝容疑者はここで出会った少女にみだらな行為を繰り返していた=令和3年12月26日、東京都新宿区(鴨川一也撮影、画像を一部加工しています)
「トー横」周辺に集まる若者たち。小川雅朝容疑者はここで出会った少女にみだらな行為を繰り返していた=令和3年12月26日、東京都新宿区(鴨川一也撮影、画像を一部加工しています)

終電の時間が迫り、2人組の少女たちが帰宅しようとすると、ハウルは仲間に駅まで送るよう伝えた。「この時間の歌舞伎町は危ないんで。女の子は特にね」と記者の方を向いて話した。

少女たちへの配慮を欠かさない姿勢を示し、ボランティアを強調していたハウルだったが、この時すでに、それとはかけ離れた裏の顔を見せていた。

少女への淫行で逮捕

都内に住む16歳の少女を自宅に呼び、みだらな行為をしたとして、警視庁少年育成課は今年6月、東京都青少年健全育成条例違反の疑いで、ハウルこと、小川雅朝(まさとも)容疑者(32)を逮捕した。

逮捕容疑は昨年12月と今年3月の犯行だが、捜査関係者によると、小川容疑者は昨年8月ごろ、トー横で少女と知り合い、約20回にわたり自宅などに連れ込んでいたとみられるという。

調べに対し、「(少女が)19歳だと思っていた」と容疑を否認。一方で、捜査関係者によると、少女は18歳未満であることを伝えていたが、小川容疑者が「補導されたときは、『2000年生まれの21歳』と答えるように」と指示していたという。

少女が朝帰りや外泊を繰り返したことから、少女の母親が昨年11月、警視庁に相談。母親はトー横まで行き、小川容疑者にも直接、「午後11時以降に15、16歳の子供をいさせるなんておかしい」「関わらないでほしい」などと繰り返し警告していた。だが、母親の悲痛な願いを小川容疑者が聞き入れることはなかった。

「今後、同じような被害に遭う子が出ないよう、厳しく処罰してほしい」。少女の母親は捜査員にそう訴えたという。

「今はただのクズ」

小川容疑者の逮捕を受け、トー横や、そこに集まる少年少女たちの今後に変化はみられるのか。

歌舞伎町卍会は6月28日、幹部約10人の全会一致で解散を決定した。

「責任者」を名乗る30代の男性によると、会の調査で、小川容疑者が複数の女性に不適切な行為をしていたことが判明。男性は「前は穏やかな人物というイメージだったが、今はただのクズだと思う」と憤り、「被害者が出ている以上、活動を続けることはできない」と話した。

ただ、警視庁の捜査幹部は「卍会が解散しても、少年や少女たちがトー横界隈(かいわい)に集まることは変わらないのではないか」と警戒を続ける。

「帰ったら、メシ作ってやるからな」。6月24日、小川容疑者が送検のため護送車に乗り込む際、集まった報道陣に向かって叫んだ言葉は、少年少女たちの胸にどう響くのだろうか。(根本和哉、橘川玲奈)

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