居場所のない少年少女たちがたむろする東京・歌舞伎町の通称「トー横」で、「ハウル」と名乗っていた男が16歳の少女にみだらな行為をしたとして、警視庁に逮捕された。トー横を取材する中で出会った男は、少年少女たちに食事を振る舞い、良き相談相手のようだった。支援者としての「夢」まで語っていたが、少女を毒牙にかけていた。表と裏の顔を使い分けていたハウルの正体とは…。
本名・年齢明かさず
「俺、児童養護施設作るのが夢なんですよ」
真冬の寒さが身にしみる昨年末の深夜、トー横を取材していた記者に紫色の長髪の男はそう語った。炊き出しや清掃活動などをするボランティア団体「歌舞伎町卍(まんじ)会」の総会長で、「ハウル・カラシニコフ」と名乗った。本名や年齢は明かさなかった。
トー横は、歌舞伎町にある複合施設「新宿東宝(とうほう)ビル」の「横」から名付けられた。数年前から交流サイト(SNS)などを通じ、少年少女たちが集まるようになり、コミュニティーが形成された。
ホテルからの飛び降り自殺、ホームレス男性に対する暴行事件、児童買春、未成年者の飲酒・喫煙…。記者は事件や問題が頻発していたトー横に何度も足を運び、そこに集う少年少女や大人から話を聞いてきた。その中にハウルもいた。
ハウルは令和3年4月ごろからトー横で炊き出しなどの活動を始め、晴れた日や週末には仲間たちとトー横で朝を迎える、と話した。初めて出会った日は、手作りのパスタやコンソメスープを少年少女に振る舞っており、パスタを入れた容器はすでに空だった。
取材中、2人組の少女がハウルに話しかけた。高校生ぐらいの年齢とみられる少女は「頑張ってるんだけどさ、クラスに嫌なやつがいて、あんまり(学校に)行けていない」と打ち明けた。ハウルは「無理すんなよ。嫌なことがあったらすぐに言いな」と助言した。
「変なやつに絡まれないように、みんなで見守ってあげようって感じです」。相談に乗るのも活動の一環だと説明していた。
再三の注意に従わず
ハウルの姿を追っていると、別の一面ものぞかせた。
仲間たちが酒を飲み、喫煙しているところを新宿区の警備員が見つけ、「ここは道路なので飲酒はやめてください」と注意した。ハウル自身は飲酒や喫煙をしていなかったが、「僕たちはボランティアです。区の許可もらってます」などと応じ、従う様子はない。
警備員に再度注意されても仲間らが飲酒、喫煙を止めることはなく、警備員が去ると、ハウルは「しつこいなぁ」とぼやいた。
終電の時間が迫り、2人組の少女たちが帰宅しようとすると、ハウルは仲間に駅まで送るよう伝えた。「この時間の歌舞伎町は危ないんで。女の子は特にね」と記者の方を向いて話した。
少女たちへの配慮を欠かさない姿勢を示し、ボランティアを強調していたハウルだったが、この時すでに、それとはかけ離れた裏の顔を見せていた。
少女への淫行で逮捕
都内に住む16歳の少女を自宅に呼び、みだらな行為をしたとして、警視庁少年育成課は今年6月、東京都青少年健全育成条例違反の疑いで、ハウルこと、小川雅朝(まさとも)容疑者(32)を逮捕した。
逮捕容疑は昨年12月と今年3月の犯行だが、捜査関係者によると、小川容疑者は昨年8月ごろ、トー横で少女と知り合い、約20回にわたり自宅などに連れ込んでいたとみられるという。
調べに対し、「(少女が)19歳だと思っていた」と容疑を否認。一方で、捜査関係者によると、少女は18歳未満であることを伝えていたが、小川容疑者が「補導されたときは、『2000年生まれの21歳』と答えるように」と指示していたという。
少女が朝帰りや外泊を繰り返したことから、少女の母親が昨年11月、警視庁に相談。母親はトー横まで行き、小川容疑者にも直接、「午後11時以降に15、16歳の子供をいさせるなんておかしい」「関わらないでほしい」などと繰り返し警告していた。だが、母親の悲痛な願いを小川容疑者が聞き入れることはなかった。
「今後、同じような被害に遭う子が出ないよう、厳しく処罰してほしい」。少女の母親は捜査員にそう訴えたという。
「今はただのクズ」
小川容疑者の逮捕を受け、トー横や、そこに集まる少年少女たちの今後に変化はみられるのか。
歌舞伎町卍会は6月28日、幹部約10人の全会一致で解散を決定した。
「責任者」を名乗る30代の男性によると、会の調査で、小川容疑者が複数の女性に不適切な行為をしていたことが判明。男性は「前は穏やかな人物というイメージだったが、今はただのクズだと思う」と憤り、「被害者が出ている以上、活動を続けることはできない」と話した。
ただ、警視庁の捜査幹部は「卍会が解散しても、少年や少女たちがトー横界隈(かいわい)に集まることは変わらないのではないか」と警戒を続ける。
「帰ったら、メシ作ってやるからな」。6月24日、小川容疑者が送検のため護送車に乗り込む際、集まった報道陣に向かって叫んだ言葉は、少年少女たちの胸にどう響くのだろうか。(根本和哉、橘川玲奈)