愛の幻想に溺れ、探る普遍性 内野聖陽「M.バタフライ」

「信じていたものが崩壊したとき、自分だったらどうなってしまうか。それを突き付けられるような芝居にしたい」と語る内野聖陽=大阪市北区(安元雄太撮影)
「信じていたものが崩壊したとき、自分だったらどうなってしまうか。それを突き付けられるような芝居にしたい」と語る内野聖陽=大阪市北区(安元雄太撮影)

愛の幻想はどこまで人を愚かにするのか。噓のような実話をもとにした舞台「M.バタフライ」(デイヴィット・ヘンリー・ファン原作、日澤雄介演出)が7月13~15日、大阪市北区の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開かれる。理想の女性と信じた愛人が男性スパイと気付かずに外交機密を漏洩(ろうえい)し続けたフランス人外交官役を演じるのは、変幻自在に役を生きる内野聖陽。「人は幻想に恋をする。誰しもあることで、『これだったらだまされちゃうよね』という感覚を呼び覚ますものになれば」と語り、特殊に見える物語の中に普遍性を探る。

不可思議な人間

舞台は1960年代、文化大革命前夜の中国・北京。駐在フランス人外交官のルネ・ガリマール(内野)は社交の場で京劇のスター女優、ソン・リリン(岡本圭人)に出会い、東洋女性のエキゾチックな美しさと奥ゆかしさに激しく惹(ひ)かれる。男女の関係となった2人の生活は20年続くが、ソンは実は毛沢東のスパイであり、女性になりすました男性であった。

「M.バタフライ」でルネ・ガリマールを演じる内野聖陽(左)とソン・リリン役の岡本圭人
「M.バタフライ」でルネ・ガリマールを演じる内野聖陽(左)とソン・リリン役の岡本圭人

実話を元に、オペラ「蝶々(ちょうちょう)夫人」とリンクさせた独自の世界観で物語は展開する。88年にトニー賞最優秀演劇賞を受賞。日本では劇団四季が手がけて以来32年ぶりの上演となる。

最大の疑問は「なぜ男性だと気付かなかったのか」だろう。この問いに内野は「人は恋をするとき、自分勝手な幻想で相手を見ている。特に隠されている部分を幻で作り上げてしまう。人間というのはそれほど不可思議な動物なのだという気がします」と答える。

ガリマールには妻がいる上、ソンとはプラトニックな関係ではなかった。だが、「彼は女性慣れしていないロマンチスト。理想の女性像を投影した『慎み深い』ソンとの男女の行為はすごく儀式的で神秘的でだまされてしまった」と読み解く。

ソン役の岡本は、2度目の舞台ながらも、米演劇学校で学んだ気鋭の俳優。内野は「役と向き合う粘り強さがあるし、美しい。すごくわくわくする」と高揚感をにじませる。

できあがった俳優にはならない

せりふは「覚える前に味わう」のが内野流。イメージを広げる作業によって「自然と匂い立ってくるものや毛穴からにじみ出るものがある」という=大阪市北区(安元雄太撮影)
せりふは「覚える前に味わう」のが内野流。イメージを広げる作業によって「自然と匂い立ってくるものや毛穴からにじみ出るものがある」という=大阪市北区(安元雄太撮影)

現在53歳の内野は、色気も渋みも甘さも、自由自在に操る。幕末の志士から破天荒な警察の検視官、チャーミングなゲイの美容師など、さまざまな役に命を吹き込み、絶大な存在感で多くの代表作を作り上げてきた。一方で、評価されればされるほど危機感が強くなっているともいう。

「技術もそれなりに蓄積して年齢も上がってきた分、現場で反論されなくなってきた。でも、もっともっと要求してほしい。冒険しなくなるのがすごく怖いんです。安定し始めている自分を破壊したい」と、優しさをたたえていた目に鋭い野性味が光った。

「できあがった俳優にはなりたくない」。内野が進化を続ける理由はこの一言に尽きる。(田中佐和)

問い合わせは梅田芸術劇場(06・6377・3888)。

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