<真夏日のひかり澄み果てし朝茅原にそよぎの音のきこえけるかも>。精神科医でもあった斎藤茂吉が勤務していた病院の構内で詠んだ歌らしい。真夏の太陽が照り付けるものの、耳をすませば葉のそよぐ音が聞こえる。
▼文芸評論家の山本健吉はこの歌を「この世の景色ではない」「静寂のきわみ」と絶賛した。一方で、最高気温が30度以上の日を「真夏日」とした気象庁の取り決めを批判した。「美しい詩語」を「不快感を伴う言葉にしてしまった」(『ことばの歳時記』)。
▼それから30年近く経つと、最高気温が35度以上の日も珍しくなくなる。そこで平成19年に、新たな予報用語として加わったのが、「猛暑日」である。高温に対して注意、警戒を呼び掛ける際に「熱中症」が使われるようになったのもこの年からだ。