森林活用で脱炭素実現へ 鹿島、新工法で需要創出 生育サイクルの持続可能性支える

木の温もりを感じる建物や、緑あふれる都市空間をつくりあげてきた鹿島グループが、森林の積極的な活用を進めている。100年以上にわたる山林経営の実績や全国5500ヘクタールに上る保有林を生かし、新たな工法や緑化を広めて木材需要を創出。国内の森林の持続可能性が問われるなか、「植林し、手入れして育て、伐採してまた植える」という健全な生育サイクルの維持につなげる。脱炭素社会やSDGs(持続可能な開発目標)への貢献などの価値を提案し、「みどりのバリューチェーン」を構築する。

フライングボックス工法

コンクリートの床板に建つ、木材の壁と天井が清々(すがすが)しい印象の1ルーム。シャワーや洗面台、ベッドも据え付けた空間を収めた“箱”が、「玉掛けよし!」の掛け声を合図に地上から浮上し始める。頭上のタワークレーンが稼働音を響かせながらゆっくりと床板に付けた吊(つ)り具を引き上げ、建設中の施設5階にブロックのように取り付けると「宿泊室」がほぼ完成した。

鹿島が自ら発注し、設計・施工する「(仮称)鶴見研修センター」(横浜市)。今年末の完工を目指して作業が進む現場で、生産性や安全性の向上につながる新たな工法が適用されている。

地上で内装まで仕上げユニット化した部屋を丸ごと吊り上げ、設置フロアに取り付ける「フライングボックス工法」だ。従来の屋外での現場作業に比べ、屋内で組み立てが済み天候による遅延を防げるうえ、部材の運搬など工数を削減できる。高所の作業が減り安全性も向上する。鹿島は2018年に着工したシンガポールの住宅や店舗の大型複合施設で、鉄筋コンクリート(RC)を使ったユニット化工法を日本企業で初めて施工した実績を持つ。そこで得られた知見を新工法に活(い)かした。

(仮称)鶴見研修センターのフライングボックス工法は、ユニット化した宿泊室を4~5階部分まで吊り上げる(左)タワークレーンを地上部から遠隔操作するシステム「TawaRemo(タワリモ)」を導入し、オペレーターの作業環境改善を図っている(右)
(仮称)鶴見研修センターのフライングボックス工法は、ユニット化した宿泊室を4~5階部分まで吊り上げる(左)タワークレーンを地上部から遠隔操作するシステム「TawaRemo(タワリモ)」を導入し、オペレーターの作業環境改善を図っている(右)

研修センターの3~5階に入る宿泊室81室のうち4~5階の28室で採用し、完工まで在来工法と比較して効果を検証していく予定。工事事務所の中山卓哉所長は「作業時間を約2割は短縮できる」と手応えを語る。

CLTパネル

この工法では「CLT(直交集成板)」と呼ばれる木材パネルを宿泊室の壁と天井に採用している。厚さ30ミリのひき板を3層に重ねて接着したスギ材を使ったパネルは、各層が縦横に交わる構造。平行に積層する「集成板」は用途が柱や梁(はり)に限られるが、CLTは大判化が可能で壁や天井にも利用が広がる。分割して運搬でき道路事情に合わせられるため、「国内の施工条件に適合したユニット化工法を実現できた」(建築技術部)。

宿泊室ユニットは、壁のCLTパネルをそのまま内装として現している。広葉樹を内装としている集成材の家具とともにリラックス効果を演出
宿泊室ユニットは、壁のCLTパネルをそのまま内装として現している。広葉樹を内装としている集成材の家具とともにリラックス効果を演出

オーストラリアや欧州でCLTを使った中層建築が登場するなか、鹿島はこの工法をホテルやマンション、病院などに提案して普及を目指す。資材コストなどの課題はあるが、伊藤仁専務執行役員は「木材の(質感の)優しさなど魅力を訴え、新たな需要を創出したい。鹿島が保有・管理する山林を積極活用し、脱炭素社会の実現に貢献する」と力を込めた。

鶴見研修センター新築工事事務所の中山卓哉所長(左)と伊藤仁専務執行役員
鶴見研修センター新築工事事務所の中山卓哉所長(左)と伊藤仁専務執行役員

間伐でCO2吸収増

鹿島の山林経営の起源は120年前まで遡(さかのぼ)る。1902年に創業家2代目の鹿島岩蔵が明治政府から北海道の尺別の地を借り受け、原生林を管理・育成して材木化。1940年には社内に「山林部」ができ、緑化造園などの事業の礎を築いた。東京ドーム1170個分に相当する5500ヘクタールまで広がった全国の保有林はいま、温暖化を防ぐ二酸化炭素(CO2)吸収源としての役割が高まっている。例えば、今回のCLTパネルは、鹿島が保有し、グループ会社かたばみ興業が宮崎県で管理するスギ林の間伐材から製作した。

鹿島は社有林の間伐材を活用し、新工法に生かしている。
鹿島は社有林の間伐材を活用し、新工法に生かしている。

伐採は環境に悪影響を与えるイメージがあるが、樹木の健全な成長を促す間伐は手つかずの状態に対して森林のCO2吸収量を増やす効果が認められている。鹿島グループは社有林整備プロジェクトで、排出から吸収分を差し引く環境省の「オフセット・クレジット(J-VER)」(2009年~12年度当時※1)を1万トン分以上取得した実績もある。

宮崎県の北部に位置する清蔵ケ内山林は、スギやヒノキの間伐を進めることで森林のCO2吸収量を増やし、オフセット・クレジットとして認められた。
宮崎県の北部に位置する清蔵ケ内山林は、スギやヒノキの間伐を進めることで森林のCO2吸収量を増やし、オフセット・クレジットとして認められた。

高度成長期に植林が進んだ国内の人工林は増加を続け、樹木の蓄積量は体積換算で30億立方メートルを超えている。うち利用の「適齢期」とされる樹齢50年超が半分以上(※2)を占め、伐採・植え替えは待ったなし。間伐材などは放置するとやがて腐朽し、CO2を大気中に放出するため、脱炭素に向け利用促進が求められている。

しかし、木材の主な用途の住宅は少子化などで着工戸数の先細りが予想される。鹿島グループは建材需要に加え、さまざまな用途で社有林を活用した木材利用促進を図っている。

みどりのバリューチェーンへの挑戦

実際、今回のCLTは宮崎県のスギ材を使用しているが、室内に配した家具は尺別山林(北海道釧路市)の広葉樹を使った。山林経営から緑地環境の造成、都市開発やランドスケープデザインまであらゆるシーンでみどりの価値を生かす鹿島グループ。脱炭素社会やSDGsなど新たな社会の要請を踏まえ、どうバリューチェーン(価値連鎖)を発展させていくのか。「100年をつくる会社」の挑戦は続きそうだ。

(※1)現在はJ-クレジット制度に移行

(※2)林野庁「森林資源の現況」(2017年3月末現在)

提供:鹿島建設株式会社


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