新型コロナウイルス禍や、ロシアによるウクライナ侵攻などに対し、あまりに一元的な議論が蔓延(まんえん)しているように感じる。これは評論家の山本七平のいう「空気の支配」のようなものだろう。
空気とは何か。劇作家の鴻上尚史は「『世間』が崩れているときに醸成される」としたが、核心を突く指摘だ。世間と空気は似て非なるものだ。
世間とは何らかの神秘性などを核とし、共通の時間感覚を有し、自らや共同体について軸をもって考えられる安定した場だ。こうした場が溶解しそうになると、世界を再構築しようと、短絡的な二元論に頼る。自分の生を守ってくれそうなものを善とし、死の臭いがするものを悪とする。これが空気の正体だ。